三日
木枯の夜にあらわれ旧い友
冬薔薇の絵とその冬薔薇をもつ少女よ
ひとを釣る冬空の蒙き穴より
海をきて陸に棲みつく十二月
死後の景観える冬日の観覧車
寒月光新聞にきて騒めける
打ち水の凍る花街まだ来ない
参商(しんしょう)の真ン中にある鏡餅
こころもちマウスが重き初仕事
黄道の輝(て)りの中なる三日かな
『六曜』NO.10,2008年3月
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没 日
真直ぐに没日の方へラムネ瓶
大川の匂いのしたる晩夏光
蜉蝣のその一塊の中通る
足跡の右や左に茨の実
父母の国を掠めり颱風圏
虫の声届いていたり柩中
ランナーの後へあとへと照紅葉
翳りけり蜻蛉(あきつ)の離合集散に
しんかんと蜻蛉(あきつ)を匿し反射光
秋燈の流れるたびの点と線
『六曜』NO.9,2007年12月
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秩序
囀りや朝日の方へ胎児向き
つなぐ手と別の手にあり蛇苺
陽炎に濡れて欲望の都市(まち)となり
石の角削り取られて梅雨明ける
香水の身を翻しレゲエの夜
風鈴の夕次の言葉を待つ
水打ちて刹那を夜の艶めける
蛍火の闇に秩序を生みにけり
ただならぬ水母を増やし人痩せる
『六曜』NO.8,2007年9月
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兵士
ことごとく金にまつわり梅雨鴉
棄てるため梅雨の此岸を離れけり
激震や李下に瓦礫の詩歌俳句
地震(ない)の山肌をあらわに梅雨あける
己が身の重き一日を鳥雲に
豆飯に老婆と弾む税のこと
是非もなし夕顔の白へ還りゆく
夏至の日の空をイルカの群れがゆく
洗濯機唸り団地の明易し
炎天に尿臭いたち昭和裏面史
存命の兵士は如何に夏の月
『六曜』NO12,2008年9月
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直立の孤高の裸像夜寒星
蕭蕭と株価地を這い末枯るる
傷口の真ン中にあり曼珠沙華
下腹部の起伏に沿いし赤のまま
やや寒し鴉は今日もナルシスト
赤色燈振れり風の身に沁むピル谷間
十月は病者に優し葉は光り
『六曜』NO.13,2008年12月
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鶴よ
未完の湖へ愛を織りにゆく鶴よ
鼓動する空に応えて冬菫
蝶蝶の思弁の森に翅戦ぎ
時と間の隙間に鼻を入れる象
月面へ地球の青を置いてくる
意識という寒満月の吃水線
薄氷の上に汎るWord Wide Web
鍵穴の流砂激しく膝を折る
<外部へ>と暗渠を走る銀鼠
『豈』NO.46号,2008年4月30日
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他者という地獄
他者という地獄を生きて吾亦紅
他者という地獄の果てに虹の橋
蝉の殻無量無辺の荒野あり
血痕は日の丸に似て夏至暗し
汗か涙かそのあとのモノローグ
合せ鏡の無限空間夏蝶来
天と地の裂け目に蛇衣を脱ぐ
奔放な少女に深き夏の闇
新嶋襄終焉の地、大磯の旅館百足屋跡地にて
野にむかし一柱倒れ晩夏光
向日葵の枯れの近づく乳房かな
『豈』NO.47号,2008年11月10日