■俳句作品2007年〜2008年抜粋

             
                 *1

     三日

  木枯の夜にあらわれ旧い友

  冬薔薇の絵とその冬薔薇をもつ少女よ

  ひとを釣る冬空の蒙き穴より

  海をきて陸に棲みつく十二月

  死後の景観える冬日の観覧車

  寒月光新聞にきて騒めける

  打ち水の凍る花街まだ来ない

  参商(しんしょう)の真ン中にある鏡餅

  こころもちマウスが重き初仕事

  黄道の輝(て)りの中なる三日かな

           『六曜』NO.10,2008年3月
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     没 日

  真直ぐに没日の方へラムネ瓶

  大川の匂いのしたる晩夏光

  蜉蝣のその一塊の中通る

  足跡の右や左に茨の実

  父母の国を掠めり颱風圏

  虫の声届いていたり柩中

  ランナーの後へあとへと照紅葉

  翳りけり蜻蛉(あきつ)の離合集散に

  しんかんと蜻蛉(あきつ)を匿し反射光

  秋燈の流れるたびの点と線

           『六曜』NO.9,2007年12月
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      秩序

  囀りや朝日の方へ胎児向き

  つなぐ手と別の手にあり蛇苺

  陽炎に濡れて欲望の都市(まち)となり

  石の角削り取られて梅雨明ける

  地震より地震が生まれ夏に入る

  香水の身を翻しレゲエの夜

  風鈴の夕次の言葉を待つ

  水打ちて刹那を夜の艶めける

  蛍火の闇に秩序を生みにけり

  ただならぬ水母を増やし人痩せる

             『六曜』NO.8,2007年9月
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     兵士

  ことごとく金にまつわり梅雨鴉

  棄てるため梅雨の此岸を離れけり

  派遣労働者累累と卯の花腐しかな

  激震や李下に瓦礫の詩歌俳句

  地震(ない)の山肌をあらわに梅雨あける

  己が身の重き一日を鳥雲に

  豆飯に老婆と弾む税のこと

  是非もなし夕顔の白へ還りゆく

  夏至の日の空をイルカの群れがゆく

  洗濯機唸り団地の明易し

  炎天に尿臭いたち昭和裏面史

  存命の兵士は如何に夏の月

          『六曜』NO12,2008年9月
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  直立の孤高の裸像夜寒星

  蕭蕭と株価地を這い末枯るる

  傷口の真ン中にあり曼珠沙華

  下腹部の起伏に沿いし赤のまま

  やや寒し鴉は今日もナルシスト

  赤色燈振れり風の身に沁むピル谷間

  十月は病者に優し葉は光り

          『六曜』NO.13,2008年12月
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      鶴よ

  未完の湖へ愛を織りにゆく鶴よ

  鼓動する空に応えて冬菫

  蝶蝶の思弁の森に翅戦ぎ

  時と間の隙間に鼻を入れる象

  月面へ地球の青を置いてくる

  意識という寒満月の吃水線

  タナトスの翳を濃くして水仙

  薄氷の上に汎るWord Wide Web

  鍵穴の流砂激しく膝を折る

  <外部へ>と暗渠を走る銀鼠

             『豈』NO.46号,2008年4月30日
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     他者という地獄

  他者という地獄を生きて吾亦紅

  他者という地獄の果てに虹の橋

  蝉の殻無量無辺の荒野あり

  血痕は日の丸に似て夏至暗し

  汗か涙かそのあとのモノローグ

  合せ鏡の無限空間夏蝶来

  天と地の裂け目に蛇衣を脱ぐ

  奔放な少女に深き夏の闇

   新嶋襄終焉の地、大磯の旅館百足屋跡地にて
  野にむかし一柱倒れ晩夏光

  向日葵の枯れの近づく乳房かな

             『豈』NO.47号,2008年11月10日

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