■「超資本主義」と民主党:吉本隆明氏対談(聞き手 津森和治氏)−−雑誌「Nichi」ExtraNumber Vol.2

さて、旧知の津森和治氏から雑誌「Niche」2号(批評社)が送られてきた。

ご本人が、昨年12月吉本隆明氏とのロングインタビューをおこなっている。

先の政権交代衆院選民主党勝利を予測した吉本氏であるが、健康を害しているといいながらも相変わらず精力的に自説を展開している。

内容は多岐に渡っているが、学生時代から吉本氏の著作を熟読してきた津森氏が、長年わだかまっていた箇所を重点的に質問している。なお津森氏は1947年生まれの全共闘世代。

章建ては以下の通り。

・「超資本主義」という時代−−「贈与価値論」について

ファシズムとウルトラナショナリズムの違い

反グローバリズム毛沢東戦略の有効性

・世界金融恐慌と第四期段階の資本主義

アメリカ金融資本の破綻と日本の選択−−民営化の本質論

共同幻想としての国家論の地平−−対立する関係をめぐって

政権交代と鳩山民主党政権の行方

・理念としての自由・平等・相互扶助

・左右に片寄らない民主党への期待

・思想としての政治

それぞれ「現在」へつながる核心部分であり、長年吉本氏の主張とブレるところは少しもない。

ただ小泉構造改革郵政民営化を支持したということはこのインタビューで初めて知ったが、吉本氏の博識のなせる勇み足か。

レーニンが『国家と革命』で評価したドイツ社民主義の郵便経営をモデルに引き当てて、国家経営の官僚的サービスを止めてもっと徹底した国民へのサービス提供ができる民営化、ある意味の自主管理的、相互扶助的労働組織体に変革するという期待がこめられてていたようだ。

それが全く違ったただの会社企業体になてしまって、そこは吉本氏も評価の勇み足を懺悔している。

国鉄や旧電電公社の民営化を踏まえれば、郵政だけが吉本氏の期待にそうことはありえないことがわかりそうなものだが、どうしたことか。

保守を自認する中島岳志などからは、左派が小泉構造改革を支持して、この格差社会をつくることの手助けをしたことに対して、厳しい批判がなされている。

すなわち左派の誤認は民営化論の「出口論」でつまずいたという指摘がなされていたが、吉本氏の場合もまた例外ではなかったようだ。

中島岳志の「出口論」は拙著ブログ参照のこと。http://d.hatena.ne.jp/haigujin/20100525/1274769533

その他、グローバリズム金融危機、超資本主義論、鳩山総理と民主党政権論などわかりやすく語っている。

民主党政権論は、概ね民主党自民党的にも傾かず、共産党のような左派急進主義にもならなければ、肯定的に受け止めていいと述べている。ただしインタビューが昨年12月に行なわれているので、今の菅内閣交代への状況は当然踏まえたものではない。

その段階での鳩山総理と掲げている理念(政権の政策の根っこ)は基本的に支持している。

また相変わらず共産党への注文は厳しいものがあるが、明らかにここ一二年でアメリカの軍門にくだり、転向がなされたことを指摘している。

にもかかわらず、そんなことをしても共産党は伸びないと断言しているところは共感する。

読了して感じるのは、民主党政権への国民的期待に見合った実行力不足や、官僚・既得権益層の妨害など、政権交替後の政策過程が思うように進展しないことの危機感や焦燥感が感じられない点が気になった。

鷹揚に肯定的であるのは、少々のことでは動じない枯淡の境地に入られたのだろうか。


なお津森氏の丁寧な吉本氏の基礎概念の解説と出典の註がわかりやすい。

またインタビューを終えての後記が、津森氏の誠実な思索者の面目躍如としたもので、佳いまとめになっている。わたしも長年読み続けてきたが、津森氏ほど緻密に押さえてきたわけではない。大方の読者が理解しにくかった論述箇所が、話言葉で平易に吉本氏自身の口から解説されたことで、改めて理解を深めることができるだろう。

津森氏の労作である。

以下掲載論考目次。

[目次]

1.西山賢一「政治過程の経営はなぜ失敗をしているか」

2.津森和治「吉本氏へのインタビュー/資本主義の新たな段階と

  政権交代以後の日本の選択」

3.田中史郎「いざなみ景気」とその崩壊

4.栗本慎一郎VS三上治アメリカ金融資本の行方と鳩山政権の

  行方」

5.末永和行「昨今の経済情勢をどう認識するか」

批評社 TEL03−3813−6344

一冊1000円+税

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もう一つお知らせ。

日本保守主義研究会「澪標(れいひょう)」の冬号が大幅に遅延して

発行できたようで、届きました。

[目次]

1.石平「出陣学徒慰霊祭に参列して」

2.シンポ桶谷秀昭佐藤優井尻千男・岩田温「学徒出陣の精神−大東亜戦争を考える」

3.桶谷秀昭「思想と思想者」

4.早瀬善彦「諸外国における外国人参政権導入の経緯とその実体」

5.西尾幹二三島由紀夫の死と私」

6.岩田温「国民国家の形成−外人参政権問題研究序説」

7.早瀬善彦「書評/野田裕久編『保守主義とは何か』」

これは真面目な自称保守派を任じる論客、学究の徒が書いています。

中でも、桶谷秀昭には昔から共感を持ってよんできました。

先の吉本氏もそうですが、桶谷なども大東亜戦争丸山真男(とその他戦後の進歩的、左派、アカデミズム)などのいう「ファシズム」規定を単純に肯定していません。

要するに日本の進歩派とアカデミズムはただの西欧的概念の準用で、日本軍国主義ファシズム規定していますが、これはモダニストたちの陥る過ちとして退けている。

丸山と全共闘派との対立について、先の津森氏との対談で吉本氏は解り易く丸山の「過ち」を解説している。

季刊発行、年間購読¥5000円

日本保守主義研究会 TEL03−3204−2535(兼FAX)