「放射能で首都圏消滅」(三五館)の著者古長谷稔氏の5年前の予測はかなり正確かつリアリティーに富んでいる。
いつおきてもおかしくない東海地震、連動する東南海地震と南海地震の政府の予測は次のようになっている。
東海地震 M8 死者 9200人 被害額 37兆円
3地震連動 M8.7 死者 24700人 被害額 81兆円
首都直下型 死者13000人 被害額 112兆円
(出典:週間エコノミスト2004年12月7日号)
しかし、津波被害が予想される東海と3地震連動の二つは、今回の東日本大地震の規模と被害者数から想定するに、Mは9〜10は見込んでおく必要があるだろうし、被害者数は1.2増しは予想しなくてはならないだろう。
専門家は「いつきても」というスパンを、2ヶ月から30年先、と人間の時間感覚ではかなり巾があるので、今回の大地震を忘れた頃やってきて、おろかな日本人はまた同じような過ちを冒し、危機感の欠如を露呈するかもしれない。
古長谷氏は、東海と3連動地震の場合は、今回の大地震の比ではないと恐怖の想定をしている。特に、原発事故を政府は想定していないから、被害者数はもっと増えると警告している。
それは、御前崎市にある浜岡原発の事故により、風下にある200キロ離れた首都圏を放射能が直撃するため、6時間後には大量の放射能汚染で住めなくなると警告。
現実となれば、まず1000万人が避難しなければならない。
政府機能は消失する。
企業の本社機能は消失する。
外国との関係が数ヶ月途絶する。
治安は悪化。
そして古長谷氏は浜岡原発4号炉(沸騰型)が爆発した場合、被爆後数年でガン死者数は191万人、さらに5機全部が順次爆発した場合830万人のガン死者が予測されるとしている。
政府(原子力安全委員会)は原発事故はありえないとして事故被害は地震被害から除外しているが、今回の大震災でそうした専門家の想定は覆されている。
本日は、不安を煽るとして「嘘つき学者」やそれに訓育された「良識国民」(社会ファシスト)と翼賛メディアが、ありえないとしてきた炉心の燃料融解による圧力容器底部への落下と、燃料が粒子となって水に溶け出して流れだしていることが解った事実でも、彼らがいかにデタラメで「安全という風評被害」を撒き散らしたかが解る。
古長谷氏の描く最悪の悪魔のシナリオは、この一ヶ月の政府・専門家の発言と現実の推移をみていると、とても空想だとは思えない。
きわめて確度の高い予測であり、リアリティーを感じるのである。
福島原発事故について、東電の勝俣恒久会長の「原子炉はこの一週間ぐらい、多少安定してきた」という発言に対して、住田健二阪大名誉教授は「安定しているなんてとんでもない。まだポンプ給水でかろうじて炉心の温度上昇を抑え込んでいるだけで、いつまた危機的状況に陥るかわかりません」と反論している。
住田名誉教授は1999年東海村のJCO臨界事故の対応に当たった元原子力委員会委員長代理。
また京大原子炉研究所の小出裕章助教授は、消防車でどれだけ水を入れても圧力容器内の水位が上がってこないのは、明らかに容器内の密閉性が失われているからです。こんな状態でたとえ冷却システムが動かせたとしても、果たして機能するのかどうか。冷却に失敗すると、解けた燃料が圧力容器の底から出てくる恐れがあります。そうなると、さらに高濃度の放射性物質がでる。」と頭をかかえている。
こうした事故推移をみていると、古長谷氏が今回の事故原因を的確に予告していたことに改めて戦慄するのである。
「原発は急速に老朽化が進んでいます。驚愕すべきは”減肉”のすさまじさで、劣化した配管が断裂しやすいのは当然です。”配管の化け物”である原発は、その配管がすでにボロボロになっているのです。
2004年8月のある昼下がりー。
美浜原発3号炉で、突然配管から140℃もの超高温水蒸気が噴出。4人の従業員の貴重な命が一瞬にして奪われ、後日さらに1人が亡くなりました。原因を調べてみると、その配管はもともと厚さ10mmの肉厚であるべきなのに、なんと0.6mmしかなかったのです。なんと20分の1にまで”減肉”していたのに、約30年間まったくノーチェックでした。”減肉”は、美浜だけでなくすべての原発で進行しています。
震度ゼロでも破断するほど、日本の原発配管システムは老朽化しているのです。そこに激震が襲えば、ひとたまりもありません。
(中略)
電力会社は、新しい部品に次々取り替えているから大丈夫と言いますが、検査対象が多すぎる上に、一番検査しなければならない原子炉の近くが、放射能汚染が一番ひどいという矛盾があり、容易には検査できません。
(古長谷稔「放射能で首都圏消滅」(三五館)P94)
まさに福島原発の事故の原因を、5年前に的確に予知していたことになる。
そして12日は「レベル7」の発表がありチェルノブイリと同レベルに至ってしまった。
(註)住田健二阪大名誉教授と京大原子炉研究所の小出裕章助教授の発言の出典は、「週間朝日」4月15日増大号『福島原発「最終処理」まで30年のデス・ロード』から。