もう大道寺将司の名前を聞いても知っている人も少ないだろう。
特に若い人たちには。
日本近現代史の中の最後の赤色テロリストといったらいいだろうか。
1974年8月三菱重工本社ビル爆破事件を決行した反日武装戦線「狼」のメンバーのひとり。逮捕、判決は死刑。
詳細はここでは説明しないので、興味のある方は文献や本人の著作をいくつか出ているので調べてください。
やがて彼が逮捕後、事件を深く悔い、被害者への謝罪と懺悔の苦悶の日々の中から、俳句を紡ぎだし始める。
独房の自己確認、小さな虫や猫などの訪問者への愛情、謝罪と懺悔、悔恨と懺悔、母親への愛情と死への哀惜、ふるさとへの追憶、闘争の実存的歓喜、そしてその弱者への根源的共苦の姿勢と社会変革への未遂の思い、これらを真摯に直裁に詠っている。
ポストモダンに洗脳された中年や若者には、左翼の犯罪だというステロタイプの軽薄さでしか受け止められないかもしれない。
しかしわたしには彼の作品は、ドストエフスキーの「罪と罰」にも匹敵する存在の根源的な問題が表白されていると受け止めることができる。
俳句は読者に理解をゆだねる形式である。
どう受け止めるかは、散文と異なり読者の力量と思想の深さに負っている。特にこの大道寺の作品群にそれを強く感じる。
現在、句集評を二つの雑誌から依頼をうけているので、発表次第ご案内をしたい。
それまでにぜひ鑑賞することをお薦めする。
なお、大道寺は自分の印税はすべて被害者とその遺族への補償として寄付としているとのことである。
- 作者: 大道寺将司,辺見庸(序文・跋文)
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2012/04/03
- メディア: 単行本
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(関連資料)
①至高著『死刑囚大道寺将司全句集「棺一基」の「存在倫理」』
http://d.hatena.ne.jp/haigujin/20120616/1339858374
②至高著『俳句界8月号一句鑑賞』
http://d.hatena.ne.jp/haigujin/20120806
③江里昭彦著『大道寺将司についてのコラージュ』
http://d.hatena.ne.jp/haigujin/20120903/1346685687