優生思想の法律が与野党賛成で可決!!「民法特例法」

阿部知子の指摘、「法律の優性思想概念―過ちを繰り返さない国に」

(朝日デジタル2020.12.19)

 

国会で生命倫理に関する法案が審議されることはごく少ない。かつ議論の継承性もない。

 先日、国会閉会直前に駆け込むように成立した法案がある。生殖補助医療によって第三者から精子卵子の提供を受けて子どもを授かった場合の親子関係を定める「民法特例法案」だ。与野党の共同提案、いわゆる議員立法だということで、衆参とも、わずか2、3時間の審議で可決した。障がい者団体から優生思想の懸念があるとして、条文の削除を求められていたにもかかわらず、だ。

 法案の基本理念第3条4項に「生殖補助医療により生まれる子については、心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができるよう必要な配慮がなされるものとする」とある。子どもは「配慮」の対象でしかなく、子ども自身の権利保障の視点がないことに、私はもとから疑問を抱いていたのだが、日弁連の会長声明に「障がいや疾病を有する子の出生自体を否定的に捉える懸念がある」とあり、問題を確信した。

 私は日本障害者協議会の藤井克徳代表に電話をかけて基本理念をどう思うかと尋ねた。藤井氏は驚き、「とんでもない理念だ」と。すでにその日、参院で法案は通過していた。

 その後、複数の障がい者団体らが削除を求めた。藤井氏が会見で語ったことによると、議員の反応は「気づかなかった」「そういうつもりではなかった」「この表現で何が悪いのか」の3種類だったという。差別された側が「おかしい」と言っているのに、それを否定するような姿勢は、あまりに差別に無自覚と言わざるを得ない。

 旧優生保護法のもとでは「不良な子孫の出生防止」がうたわれ、「不幸な子どもの生まれない県民運動」も起きた。「心身ともに健やかに生まれ」と、言葉の響きは良いが、意味はつながっている。藤井氏は「優生思想に関しては、どんなにささやかな動きでも、毅然(きぜん)と注視していく必要がある」と語っている。

 結局、法案の修正は行われず法律は成立。私は採決で反対した。

 旧優生保護法、心身障害者対策基本法はいずれも議員立法である。各会派内で議論や合意があるものとして、国会での審議は1時間となく、ほぼ全会派一致で成立している。議員立法の役割は大変重要だが、他方で、生命倫理に関わる基本法がない我が国にあっては、慎重な審議プロセスの担保が不可欠だ。

 法成立の直後から、日本産科婦人科学会卵子提供解禁の議論が始まっている。科学技術の進歩が、ますます生命を操作しうる時代となっていく。国会に課せられた役割は、国民的関心の喚起とともに、過去の過ちを繰り返さないことである。

 (あべともこ 衆院議員〈立憲民主党〉)