孫崎享のウクライナ戦争についての講演に雑感

孫崎享の「ウクライナ戦争と新自由主義の行き詰まり」という、1/22新社会党新春講演会を見ていたが、相変わらず反米健在なりだ。(YouTube)
反米を言いたくて、ウクライナ戦争のロシア擁護をしている場合ではないだろう。
ツッコミどころ満載。
締めくくりが、ゼレンスキーはテレビに出たいからって戦争続けるな、だからね。(苦笑)
 情報のほとんどない初期に、私はウクライナ戦争論を書き、日本リベラル派を批判した。
孫崎もリベラルを批判しているが、国会でゼレンスキーを写してスタンデイングオベーションなどするリベラル野党はおかしいと。それはそれでいいのだが、ロシアの問題に言及せず、反米反政府の観点だけでは、やはりこの戦争から受けた世界の大衆の心情を無視しているだろう。
そして、政治に付きまとう「正義」問題を欠落させてしまう。
結論的には、日本政府は和平提案に動け、アメリカに引っ付いてG7で煽るなという点はその通りだ。しかしその論理の組み立ては、プーチン擁護、NATOが悪いという言い方では、世界は納得しないし、現に納得していない。
1.ゴルバチョフと西側首相はみんなNATO拡大はしないと約束した、それを西側が破ったのが原因だと。
それ、条約でもなく口約束でしょ、戦争おっぱじめるほど重要なことなら条約、文書でとっておくのが国家の常識だろう。それを怠ったロシアだって問題だろう。そんなものは無かったと言われても証拠も示されないではないか。
2.NATOの東方拡大を唯一の理由に孫崎は言い切るが、なぜロシアは市場経済自由主義でいくといっていながら、なぜそれを徹底しないのか。他人の責任にして、ウクライナ国民を虐殺していいのか?
しかも、東欧諸国が自由主義化して、NATOを潰さずに自分たちを入れて欲しい、ロシアが危険だと泣きつかれたのが事の真相ではないか。プーチン(日本リベラル派)は、米NATOが約束を反故にして緩衝地帯を崩壊させたために戦争始めたのだと言ったわけだ。
勝手に緩衝国家と位置付けられた国民はいい迷惑ではないか。
アメリカの太平洋戦略の緩衝国家にされて喜んでいるのは日本くらいのものだ。磯崎は反米主義に持ち味があって、誰よりも日本の米国属国を苦々しく思ってきた人物らしくない。東欧諸国を属国にしようというロシアの意図にはなぜ触れないのか?
3.なぜロシアの擁護に徹するのか?もちろん擁護することはいいとしても、ロシアの国力と戦争ともに擁護するような発言はよくない。他国(ロシア)のことを日本人がとやかく言うことは止めるべきだ、国連憲章は民族の独立を謳っているのだから、というのは孫崎自身の立場ではないか。それならNATOのことも、ウクライナのことも言うな、と思うが、その矛盾には笑ってしまう。
4.質問者が、停戦案を述べた。
孫崎はウクライナNATOに入るな、東部は選挙で帰属を決める、その二つさえ言えば、ロシアは納得して休戦は成立すると。
東南部はロシア系が6割を超えているからだと。
質問者は、それに対して、東部はロシアが選挙を認めないだろう、しても公正になされるかどうか?国連に委託するしかないと提案。
不思議なことに、孫崎はクリミアは問題にもしていない風だ。
クリミアなど、もともとタタール人の居住区であったものをソ連時代強制移住させて根絶やしにした。ソ連崩壊後タタール人が東部から帰ってきて政治の一翼を担っていた。本来ロシア語系だと断定するとソ連時代の負の遺産が噴出する可能性があるのである。
また質問者は、プーチンを調べると強権的ナショナリスト、謀略家、独裁者、リベンジ主義者などで、和平にのるだろうか?と質問。
孫崎は、オリバーの書いたプーチンを読めば、そんな人物ではないことが解ると。質問者の人物像は、戦争に入ってからの発言からのプーチン像で、もっと話のわかる人物だと徹底擁護している。
これも奇妙な話で、平時の発言で今の、或るいはプーチンの内心が解るわけがかなし、それは意味がないだろう。どんなに高尚な思想のリーダーでも、戦争を初めて、それを合理化する論理がおかしければ、当然それが実像として判断したうえで交渉をしなければ過つだろう。
私に言わせれば、まず常任理事国として侵略戦争を開始したロシア、それはいかなる理由でも認められない。
まして他国に責任転嫁するのは、常任理事国の任務に真っ向から違反している。ここを繰り返しいいつつ、国際関係の理不尽さを解説することしか、どのような外交官上がりや専門家でも失格だということ。
まして、和平案に孫崎が決定的に欠けているものは、ロシアの「ウクライナへの賠償」である。これだけ他国の領土を破壊しつくし人命を奪って、最もだいじなのは、復興への賠償であろう。
すなわち、この視点が抜け落ちる点で、国家を法人格の主体として語る外交官や専門家のまやかしがあるのである。
孫崎の台湾と尖閣問題については、まったく異論はない、同意する。
しかし、ウクライナ戦争論は、新社会党が呼んだだけあって、ロシア、中国などへ肩入れして、反米国・反西欧諸国へイデオロギー的に傾き過ぎているように感じた。
初期の私のリベラル派批判は、孫崎のように、専門家がその国の国民の一般意思をどう診るかという座標軸をもたない点を批判したものであり、同時に米国ポチになりきって日本政府が和平提案の寸分の意思もないことであった。
ウクライナ支援といっても、政府のように対米従属だけで同調する支援ではないのである。
従って日本政府の態度に関しては孫崎と一致しうるところである。
笠井潔が指摘するように、国家や首脳が中心に織りなす国家間の問題を語り、国民など小さなものとして少ししか視界にとらえられない、これは基本的に間違った判断をもたらすということだ。
この間この私の疑問をある程度解消してくれたのは、中見真理紹介のジーン・シャープの「無抵抗主義」である。
旧東欧諸国が、次々にカラー革命に成功していったのは、ジーン・シャープのゲラ刷り抵抗論稿が、アングラで出回り、ジーンシャープも呼ばれれば、現地に入り、反体制グループとロシアからの独立運動の戦略戦術を練って、徹底した非暴力主義独立革命を成就させたことである。
シャープは、私も知らなかったが、ガンジーの無抵抗独立闘争を崇敬し、在野の研究所を創った思想家である。
途中、研究所が財政危機に陥り、共和党などから財政支援を受けていたらしい。そういう経過が誤解を放っていることがあるかもしれない。
実は私事だが、中学時代から私もガンジー主義で徹底した非暴力抵抗主義を学内では演説までしていた。ガンジーが好きな人は、悪い奴はいない(笑)。
セルビアリトアニア(バルト三国)、チェコハンガリーなどなどへ、ジーン・シャープは自由主義反ロシアグループと交流し、2018年に死去するまで、ミャンマー民主化グループに入って、軍部との抵抗運動を指導している。さすがにミャンマーは、内戦になってから要請にこたえたため、指導者からミャンマーで「無抵抗主義」など使えない、少数民族が虐殺されている中、それはできないと修正要求され、「政治主義的抵抗」と言い換えて、場合によっては武力的抵抗もありうると修正した。
ウクライナの詳細は調べている最中で、シャープ理論が受け入れられてゼレンスキー内閣が誕生したのかどうか不明であるが、後発であるがゆえに、西部地区の自由主義ナショナリストたちには読まれていたことだろうと推測している。
ウクライナの失敗は、プーチンらの近親憎悪とリベンジ主義という表面化しないどす黒いルサンチマンを甘くみたことであろう。
逆に言えば、ウクライナ反露派のルサンチマンは、プーチンらより強かったというべきか。
ジーン・シャープの「無抵抗主義」に依拠した戦いをもう少し早く準備していれば、このような惨事にはならなかったはずだ、と勝手に推測している。
なまじ、ソ連時代の工業地帯で、中央政府の繋がりや親露派が多かったウクライナが出遅れたのは詮無い話ではあるが。
早くロシアの撤退と戦争開始時点に戻って、両国ともに和平交渉のテーブルつくことを願い、世界市民は声を強めて国連を動かしていかなければならないだろう。
鮒侍岸田政権などに任せておくことはできない。
(以上書きなぐりのメモとする、Facebookより転載)