<社説>敵基地攻撃能力 専守防衛の形骸化憂う (東京新聞2022年12月3日 07時37分)(忘備録)

「敵基地攻撃能力」保有に関しては、安倍政権下でイージス・アショアの配備をはじめとして、2020年に論議は開始されて今回集大成といったところだ。
(詳しくは「奔」no5所収、杉原浩司著『「敵基地攻撃能力」保有論を排し、今こそ強力な軍縮運動を』参照のこと)
それ以前に、個別的自衛権(専守防衛)から集団的自衛権(同盟同時敵攻撃)に解釈改憲をしたが、それは全て米軍と一体化して、世界戦争を準備するものであり、憲法九条は今回完全に形骸化した。
以下、東京新聞の端的にして適確な社説を掲載し、編集部に強い連帯の意を表明する。
 
敵国のミサイル発射基地などをたたき、日本への攻撃を阻む敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に自民、公明両党が合意した。
 攻撃を思いとどまらせる抑止力の強化が名目だが、外国領域を攻撃できる装備を持つことは、憲法九条に基づく専守防衛を形骸化させる。強く憂慮する。
 戦後の歴代内閣は「攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめる」専守防衛を堅持してきた。先の大戦への反省に基づく安全保障政策である。
 専守防衛を踏まえ、敵基地攻撃自体は、ほかに対抗手段がない場合は「自衛の範囲内」と認めつつ他国に攻撃的脅威を与える兵器を平素から持つことは「憲法の趣旨ではない」としてきた。
 そうした装備を一転して持てば他国に軍事的脅威を与える。それでも専守防衛といえるのか。
 自公合意を受け、政府は国家安全保障戦略など三文書を改定し、敵基地攻撃能力の保有を明記するが、その抑止効果や必要な経費は依然不明だ。周辺国に軍事大国化を警戒されて軍拡競争を招き、地域の緊張を高める懸念もある。
 敵基地攻撃は日本へのミサイル発射に「着手」した時点で可能になるとされるが、着手したか否かの認定は、政府が「個別具体的に判断する」ことになるという。
 ミサイルが実際に発射されていなくても、着手を理由に外国領域を攻撃すれば、国際法違反の先制攻撃とみなされ、相手国に日本攻撃の大義名分を与えかねない。
 政府は、長射程ミサイルの国産を目指し、米国製の長距離巡航ミサイル「トマホーク」購入も検討するが、標的を正確に探知できるのか、導入にどれだけの費用を要するのかも不明のままだ。
 日米安保条約体制は自衛隊が防衛に徹し、米軍が攻撃を担う「盾と矛」の役割分担で成り立ってきた。日本が攻撃力を持てば、条約の在り方が変質する。
 安全保障関連法で、日本は違憲とされてきた集団的自衛権を行使できるようになった。敵基地攻撃能力を実際に持てば、日本が攻撃されていない段階で、他国同士の戦争に参加し、外国をミサイル攻撃する事態も想定される。
 それでも岸田文雄首相が「専守防衛は全く変わらない」とするのは詭弁(きべん)だ。平和国家として築いた国際的信頼を大きく損ねる。