■菅総理消費税率アップと「第三の道」、はたして日本でうまくいくのか?

■消費税が争点、参院選24日公示
(読売新聞 - 06月23日 21:16)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1253027&media_id=20

選挙前に藪から棒に消費税率アップを言い出した菅総理の舞台裏が判明した。

施政演説の出所は財政学のブレーン神野直彦東大名誉教授ということが解っていたが、もう一人は小野善康阪大教授(経済学)だ。

菅総理東工大の後輩で内閣府参与。

第三の道」はブレア労働党内閣の掲げた政策。以前紹介したようにもともとは経済学者アンソニー・ギデンズの理論である。

新自由主義という説ももとはこのギデンズの説なのだが、サッチャー政権の政治的誤用もあって、アメリカにわたってからは市場原理主義と同義に使われるようになっている。

第三の道」とは一言でいうなら、新自由主義と強度の高福祉主義の中間をいくというもの。

資本主義経済社会に、本来「第三の道」などはありえず、極端な市場放任主義か高税率高福祉の社民主義しかない。

比喩的にいっているわけで、ほどほどに税が高くて、ほどほどに国民の福祉を補償して、適度の自由と格差の適当にある社会をつくろうという政策だといっていい。
言い方をかえれば、ほどほどにという評価を主観に任せた政策なのだ。

小野教授はTVでも語っていたが、スウェーデンの財政バランス、高福祉、失業率3%以下の雇用安定、こういうものをモデルとしているようだ。
たしかにスウェーデンは一連の改革で大成功している。

とりあえず、消費税10%はすぐにでも上げて、その税収は財政赤字補填ではなく、例えば介護などの雇用創出とその介護士などの所得保障につぎ込む、つまり徴収した金は労働者の所得に回して消費を活性化していく。

子供手当てなどの現金支給は経済効果を生まないから、新しい産業への投資と労働者の所得として還元することに税収は特化するということのようである。

小野教授のインビュー記事。

[東京 21日 ロイター]
 菅直人首相の経済ブレーンで、内閣府参与を務める小野善康大阪大学教授はロイターのインタビューに応じ、菅氏が提唱する「第三の道」とは雇用創出を起点に需要拡大やデフレ克服、財政再建を進める政策と説明し、そのために資金が必要であれば増税も構わないと語った。

 雇用創出に向けて「消費税は来年からすぐにでも上げたほうがいい」とし、現在5%程度の失業率を「3%に下げるまで人を雇えるお金が必要だ」との見解を示した。

 また、増税分は借金返済に充てるのではなく、雇用創出とその所得支払いにまわすべきだと主張するとともに、税収の使途は、福祉目的税のように限定しないほうがいいとの見解を示した。

 デフレ克服については、デフレギャップを残したまま「お金の発行量を増やしてもデフレはなくならない」と指摘するとともに、日銀にデフレの責任を押し付けるべきではないと述べた。その上で、日銀は金融緩和をすでにかなりの程度やっており「これまで通りの金融緩和の姿勢を保ってほしい」と語った。

 インタビューは18日に行った。概要は以下の通り。

 ――菅首相の目指す「第三の道」という経済財政政策はこれまでの政策とどう違うか。

 「過去の自民党政権下で取られた第一の道は、消費者にお金をばらまけばいいというオールド・ケインジアンの発想であり、無駄な公共事業や減税、補助金を指す。第二の道は構造改革そのもので、1990年代以降に生産能力が余っているにもかかわらず生産能力を上げようとした小泉・竹中改革。双方に共通するのは、労働資源を活用することが頭になく、お金を使うか倹約するしかないこと。これでは需要と雇用は生まれない」

 「第三の道は、人に働いてもらうことが目的。そのために資金が必要なら、増税しても構わない。そうすれば当初の増税分は家計に所得として返るので、その時点で家計負担はないし、サービスや設備も提供される。雇用が増加してデフレも雇用不安も緩和されるため、消費が刺激され、経済も成長して税収が増え、財政も健全化していく」

 ――大きな政府になるとの懸念がある。

 「日本の公共部門の対GDP比の財政支出、人口1人当たりの公務員数は、OECD経済協力開発機構)加盟国中でも最低水準。その意味で1990年代から最小政府だった。そもそも私が言っているのは公務員を増やせということでなく、あくまで余った労働資源を活用するということであり、民間へのサポートを政府がするということ。たとえば介護士の待遇をよくして雇用を増やせば、若い福祉職員の所得が上がり、デフレも緩和され消費も増えて税収も上がる。逆に民間に任せきりで政府が活動を減らせば、かえって失業者が増える。それは小泉構造改革で明らかになった」

 「財政支出を行う際、お金を渡すだけでは家計に埋もれて需要に結びつかない。また、必需品を供給しても、それまで買っていた分を減らすだけ。必需品ではなく、政府が何もしなければ十分に供給されないが、全くの無駄ではない分野に配分する。例えば介護や教育、壊れそうな橋の修繕や自転車道の整備など社会資本整備がよい。私は規制改革や公共事業反対論者ではない。人を働かせて雇用と新しい需要を創ることこそが重要だ」

 ――具体的に政府がすべき支援策は。

 「雇用などの助成金がわかりやすいかもしれない。政府が必要施設を作って無償で提供し、あとは民間で自由に競争してもらってもいい。介護ロボットの支給でもいい。どれも公務員を増やさず、民間の需要や雇用を増やすことができる」

 「子ども手当の現金支給は愚策。必需品を配るのも意味がない。あったらいいが、何もしなければ買われない物やサービスなら、その分の便益が増え、新たな雇用も生まれる」

 ――菅首相は消費税の増税を含む税制改革について2010年度内に取りまとめたいと表明。当面の消費税率は10%を1つの参考にするとしている。

 「消費税は来年からすぐにでも上げたほうがいい。数字については示せないが、失業率を3%に引き下げるまで人を雇えるお金が必要で、そうであればかなりの増税が必要となる。私は消費税が特にいいと言っているのではない。本来なら所得税を引き上げ、特に最高税率を上げて累進性を高めればいい。高所得者はお金を使わないからだ。また相続税増税でもいい」

 「要は増税分を借金返済ではなく、雇用創出とその所得支払いにまわすということだ。それによって増税分の雇用が生まれる。低所得者の収入が増えれば、消費も増えて税収も上がる。増税による税収の使途は、福祉目的税のように限定しないほうがいい。使途は国民が意見を出して政治家が判断すべきことだ。目的税化してお金を配るだけでは雇用は生まれない」

 ――菅首相は2011年度までのデフレ克服を重要課題に挙げているが、これに対して日銀の政策をどう評価するか。

 「デフレギャップを残したままでは、お金の発行量を増やしてもデフレはなくならない。デフレの克服は総需要と雇用の拡大によってデフレギャップを減らすことでしか達成できない。バブル以前の需要不足でなかった時代には、ハイパワードマネー拡大が物価上昇につながったが、バブル以降はまったく効いていない。日銀も財務省も、それぞれ貨幣と国債という金融資産によって、最大限の信用拡大を行っている。国債への不安の高まりも、これが限界に近づきつつあることを反映している」

 「いま日銀ができるのは、貨幣の信用を維持できる範囲で、できるだけ金融緩和をすることだが、すでにかなりやっている。したがって、これ以上、日銀に責任を押し付けるべきではなく、これまで通りの金融緩和の姿勢を保ってほしいと言うべきだ」

 *小野氏の略歴は以下の通り。

 小野善康(おの・よしやす) 東工大卒、東大大学院博士課程修了。経済学博士。菅首相とのつき合いは10年前に雑誌で対談して以来。菅氏が前任の財務相就任後は、本格的に政策立案について助言を行っている。59歳。

 (ロイターニュース 梶本哲史記者、竹本能文記者、伊藤純夫記者)

http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201006210014.html

インタビュアーが理解不足のせいか、意味がよくとれる書き起こしになっていないので解りにくいが、これだけ聴くと誠に結構な政策である。

しかし政治は学者が描く理論を過酷な利権を整理して、利権の付け替えをしなければ意味をなさない。

その利権の巣窟が、日本の場合は、実は政策を具体化する官僚組織である。またそれらとリンクした経済界、マスメディアである。

特に小野教授は、財務省も日銀も擁護する発言をしているが、本当にそうか?

財務省に都合のいい財政赤字論を誇大宣伝してきたところを放置したまま税金だけ上げて、本当に雇用創出と所得配分だけに重点化した制度設計ができるのか?

この財務省の犯罪は機会があれば採り上げたいが、今は小野教授の早くも腰の引けた発言だけを確認しておこう。

 「消費税は来年からすぐにでも上げたほうがいい。数字については示せないが、失業率を3%に引き下げるまで人を雇えるお金が必要で、そうであればかなりの増税が必要となる。私は消費税が特にいいと言っているのではない。本来なら所得税を引き上げ、特に最高税率を上げて累進性を高めればいい。高所得者はお金を使わないからだ。また相続税増税でもいい」

それならば、何故法人税率の引き下げや消費税率アップだけを言い、所得税相続税の累進性を高めることをキチット言わないのだ?

なぜ「本来なら」などという留保の前ふりをするのか?ここには最初から官僚や既得権益層との対峙を避けている気分が覗えないか?

もしそうなら、官僚の狡猾な詐術の中で、増税分はほとんどが財政赤字補填の名目で官僚に吸い上げられていくのではないのか?

わたしは、政権交代の意義が感じられる方向だといくらか支持はしたいのだが、幾つかの疑問を感じている。

いずれにしても、橋本政権下で消費税を5%に上げたときも、大蔵官僚はEUをモデルに日本の財政は大赤字だとデマを喧伝した。

債務残高を負債だといいつのって巨額財政赤字を演出し、みごとに橋本内閣や国民を騙しきったのである。
当時の日本の財政は世界的にも強力で、健全であったのだ。

念のために言っておくが、いまでも財務省や学者が言うほど財政赤字は酷くはないのだ。マスメディアはバカだから「政治と金」と「財政赤字」が好きで煽り立てる。

国家財政は企業会計とは器が違うのである。むしろ家計に近い。家計は赤字でも、家族はみな自分の財布をもって家族全員のお金を合わせれば過不足なく毎月凌いでいけるわけだが、それに似ている。

それを財務省企業会計と同じ把握で演出してみせるのだ。

だから本当のことを知られたくないため決して複式簿記を導入しないし、各省庁の特別会計は極めて複雑な出入りを繰り返して金の流れをわからなくしてしまう。ヤクザのマネーロンダリングだ。

話がずれたので戻す。

不思議なことは、いつも歴代内閣の政策ブレーン(経済学者)が登場しても、例えば竹中平蔵のようなデマゴーグが登場しても、経済学者はほとんど論争をしない。

是非この「第三の道」については十分論議して欲しいと思う。

わたしがひとつだけ安心したのは、慶応の金子勝が、ツイッターで玄葉政調会長はバカだとあからさまに罵倒していたことである。

竹中の経済政策に真っ向から論争を挑んでいたのは金子勝植草一秀だけであった。

こんどは是非われらが浜矩子さんも加わって、深化させてほしいものである。
浜さんは、このデフレは日銀のミスだといっているし、デフレ下での増税には反対しているし、是非この消費税問題に参戦して国民に解り安い説明を発信して欲しいものだ。

なお、最後に確認しておきたいのは、イギリス労働党の「第三の道」は新自由主義の枠組みそのものは認めていることである。

【参照】民主党菅内閣第三の道」を素朴に支持できるか?
     http://d.hatena.ne.jp/haigujin/20100703/1278132107