NHKへの官邸による政治介入を強化す

国谷キャスターがいなくなった『クロ現』が早くも不評である。テーマへの食い下がり方の甘さが目立ち、表層をなぞるだけで構造的問題への掘り下げが明らかに後退しているともっぱらの評判である。
筆者はもう見る気もないが、政治ネタの放送はほとんど取り上げなくなるか、あいまいな肝心な点は隠ぺいするか、酷くなることだけは予想できる。

週刊金曜日編で、NHKの内情を描いた書籍が、政治介入の巧妙なやり方を剔抉していると紹介されている。

同書のなかで『ニュースウオッチ9』関係者は、こう証言している。

「2013年頃から、政治部の記者や財界など外部の関係者から、『安倍側近が大越さんのコメントは偏っていると不満を言っているから、注意したほうがいい』と忠告されるようになった。これは親切心から言ってくれたのだが、ウチの上層部は、過剰に反応して、大越キャスターのコメントには気をつけろとか、ネタの取り上げ方を慎重にしろと現場に注文がきはじめた。大越キャスター本人は『うまくやるから心配するな』と動じる様子はなかったが、それ以来、原発や沖縄、あるいはアベノミクスを取り上げる時は、いつも以上に慎重に制作するようになった」

 くわえて、NHKの報道局幹部は、〈安倍首相に近い政治部の岩田明子記者を通じて官邸の「不快感」が伝えられることも度々あった〉と明かしている。そうして大越キャスターは降板に追い込まれていった、というのが真相だ。

 安倍政権側や官邸は、記者などの“伝書鳩”を通じて番組内容やキャスターのコメントに対する“警告”を発し、上層部に間接的な圧力をかける。無論、これはNHKに限らず、『NEWS23』(TBS)の膳場貴子キャスターとアンカーの岸井成格氏、『報道ステーション』(テレビ朝日)の古舘伊知郎キャスターの降板の裏で起こっていた事態とまったく同じ構造だ。

 しかも、NHKにおいては、もっと直接的に官邸の意向を汲み上げていた。同書では、『ニュースウオッチ9』大越キャスターの降板を最終的に決定したのは籾井会長に近いとされる放送局長の板野裕爾専務理事だったと述べられているのだが、この板野専務理事の背後には官邸のある人物の存在があるといい、具体的な名を挙げている。

〈板野のカウンターパートは杉田和博官房副長官と言われ、この頃にはダイレクトに官邸からの指示が板野を通じて伝えられるようになっていったと証言する幹部職員もいる〉
(略)
じつはこの井上氏も、以前から菅義偉官房長官との“親密ぶり”が取り沙汰されてきた人物だ。一部報道によれば、井上氏は菅氏が総務相だった時代から関係を深めてきた。そして、井上氏をNHK理事にするように籾井氏に働きかけたのは、ほかならぬ菅官房長官だと言われてきたのだ。
(略)
つまり、菅官房長官自らが自分の息のかかった人物を理事に送り込み、杉田官房副長官とともに“ダイレクトに”官邸の指示をNHKサイドに伝えていた。これはどこからどう見ても、直接的な政治の現場介入ではないか。

 籾井会長は、関連団体職員が起こした2億円着服事件や、記者のタクシー券不正使用問題にくわえ、NHK新社屋建設にかかわる土地取引問題という大きな問題を引き起こし、これらの不祥事によって官邸から見放されたと言われている。だが、ここで見逃せないのは、土地取引問題で、籾井会長の子飼いだったはずの板野専務理事と井上理事が籾井会長を裏切り、反対派に回ったことだ。官邸も土地取引について問題視していたというから、このふたりは官邸の意向に沿い、籾井会長に見切りをつけたのだろう。

 籾井氏が会長を辞任したとしても、NHKが政権に牛耳られた状態は変わらない。いや、むしろさらに安倍政権に利する放送が強化されていくのではないか──。同書を読んでいると、そうした不安が増し、背筋が凍る。
『LITERA2016.4.5』「NHK理事のなかに官邸と連絡役が…」より抜粋。

http://lite-ra.com/2016/04/post-2131_3.html