イギリスEU離脱の混沌−−混沌とはジャーナリズム・文化人の解析の方である。

イギリスは、約80万票ほどの差でEU離脱を国民投票が決めた。
大方の予想、それも特に日本の政治家マスコミ、文化人たちの予想が外れた。初期段階では、筆者も離脱はないだろうとみていたが、刻々と投票日が近づくにつれ考えが変わった。
蓋を開ければ予想通りで、マスコミほど大騒ぎをしていない。

結論的にいえば、珍しく俗悪ウヨク番組大阪読売TV辛坊次郎司会の番組に、識者として出演した学者(名前は失念)の分析が唯一まともだと思った。
短期的にはイギリスの経済はダメージを受けるが、長期的にはそれほど影響はない、というものだった。

日本がなぜ大騒ぎするかといえば、ロンドンに金融支店を置き、企業進出をしてヨーロッパ諸国へ関税なしで輸出できる恩典に浴しているからだ。

日本の庶民は、そのような企業にでも勤めていて、ヨーロッパ市場シェアが拡大したことで給与が上がったような人でないと、EU統合の恩典として実感できないだろう。

間接的には企業税収が伸びてどこかに還元されているとかはあるのかもしれない。しかし、これだけ生活者の貧困と格差が広がったなかで、誰しも先行き不安を抱え消費が伸び悩んでいることをみれば、これは離脱派への共感は「感情的」判断と小ばかにしていられない。
イギリス国民に共感を寄せるなら極めて生活防衛的な「理性的」判断だといえる。「感情的」と単に斬ってすてるなら、金をバンバン使って何にも心配することはないよ、という保証を見せてくれというしかない。

細かい投票結果はデンマーク大使館の出した簡単なデータしかみていないが、イギリス国民の離脱派はそんな状況なのだろうと思う。
裏付けは、デンマーク大使館のデータで、①高学歴が残留派、低学歴が離脱派、②ロンドンとスコットランドが残留派、田舎は離脱派。
高学歴は貴族で、EUでビジネスや旅行など自由に行き来するメリットを享受し、田舎は農民労働者で比較的生活苦におおわれている。
ロンドンオリンピック以降の低迷が直撃しているのだろう。
従ってビジネスエリートと若者が多いロンドンは残留が多い。
スコットランドは独立し、EUで恩恵を受けたい派だから事情は少し異なる。

大方のマスコミ・文化人の紋切り型の間違いは、ここからである。
右翼政党が先導したから、離脱派は「感情的」で排外主義の「悪」だとレッテル貼りしている点だ。
排外主義の論調と同機してしまう要素はあるのだが、移民の少ない田舎で離脱派が多く、移民が溢れているロンドンや大都市では残留派が多いという結果が脱落している。説明がつかない。

筆者はかつてより指摘していたのは、EU諸国が、排外主義右翼政党の伸長とともに、左翼政党政権が国家主義を強めてきたことである。

日本の左派もマスコミ文化人も、ほとんどこのことを言わない。
日本の国家論は、近代国家原理の基本的把握をぬきに、マルクス主義国家論の影響がつよかったため、「国家」はそれだけで「悪」と表象されてきた。
筆者なども若かりし頃は、そうした国家論に浸ってきた。

しかし、近代国家の本質機能は、①市民社会内の私的暴力の外化と②富の再配分機能である。
この点がスルーすると、資本の自由な移動を企図するグローバリズのなかで、国家主義が席捲することが理解できない。

端的にいえば、ビジネスエリートはグローバリズムによって、国境を浸潤し、国家から自由でいたい。すなわちむき出しの私人間闘争私企業間競争に置きたいという欲求である。
これを「理性的」というイデオロギーでコーティングした。
TPPなどは、だからISND条項で、私企業が外国国家を訴えられるのである。

ただでさえ、金持ち、ビジネスエリートは理性的で優雅だという表象をマスメディアは垂れ流している。日本の土人はこれにアメリカ様を上に置き。

右翼の伸長は、実質的に生活がままならなくなった生活者の受け皿となっておりり、左翼政権が国家主義を強めるのは、グローバリズムによって生活がたちゆかなくなった生活者のライフラインの強化である。違いは、移民排斥という単純化ではなく、一国の労働力の確保(移民受け入れ)で国家経済を回しながら、国民の生活も安定化させるという違いだろう。
従って、読み違いをしてはいけないのは、国家主義が正しく機能すれば、私人間私企業間闘争を適切に抑え込み、富の再配分を徹底化して国民の貧富の格差解消と排外主義抑止ともに得ることができる。
しかし現実には先進国が、国家主義の適切さとは何か、というところに躓いている。

イギリス国民の離脱を生活実態から無視してはいけない。
移民にもいきなりイギリス国民の税金を使って、各種社会保障が発給されるという点なども国民が豊かな時には問題にならなかっただろうが、若者の失業が増え、賃金がさがれば当然不満も起きるだろう。日本の在得会の朝鮮人利権のデマとはちがうのである。真摯に国民の不満に向き合う必要があるだろう。

なお高低学歴を問わず、若者の70%と残留派が圧倒しているのも、よく内容を見る必要がある。
おそらくビジネスエリートの若者は当然としても、イギリスで職に就けない若者は、イギリスを棄ててヨーロッパへ出ていく、その結果イギリスにいるのと同様な生活環境であることを望んでいることも考えられる。行き来の自由はそれを保証する。
この現象は、大卒の失業率が高い先進国に共通して起きている事態だ。国を棄てる、これは今後もますます拡大していしていくだろう。
こうした故郷喪失の彼らはグローバリズムの犠牲者でありながら、グローバリズムの恩典によって、イギリスを身近に感じていたいとう自己肯定でかろうじてアイデンティティーを保っているといえる。

こうして、国家主義をめぐって、従来の左右の区分けが意味をなくしている。ますます日本のマスコミなど文化左翼は混乱するだろう。
EUでは、左翼と右翼政党が拮抗し、連立をつくるようないままでにない政権が出てくる。

移民を無条件に受け入れると国民のストレスは高い。
だから排外主義派は伸びるが、現実的な労働力不足を招き、経済が減衰する。
このなかで、最適解はどこにもない。いえることは、文化が違うという現実を直視し、国民と共生できる「移民教育」を施す必要があるということである。

誤解なきようにいっておけば、筆者はグローバリズムは不可避である、資本主義である限りとめようがないと考えている。これは先進国の共通した矛盾として横たわっている。
その解決は良質な国家主義というものが考えられるなら、当面そこに立ち戻って解決策を出さざるをえないだろうということだ。
資本主義は加速度を強めて運動する。今のグローバリズムは原爆と同様生活環境の整備が追い付かないほどのスピードで、旧来の快適な生活を破壊している。それを食い止められる強力な力は何か?という問いでもある。
グローバリズムは自然現象ではなく、資本の推進を担う者がいて、人為的なものだ。人間を疎外するスピードを緩やかにし、それを克服する原理的設計図は人間が描かなくてはならない。

同様に、ポビュリズムの概念も、マスコミや日本の文化左翼の使用の仕方はまちがっているので、トランプ現象やEU諸国の右翼伸長をうまく把握できていない。
また改めて。