月光抄
蚊柱の上へ上へと六本木
遠雷にゆっくり脚を開きけり
戦前のその水際の夏帽子
敗戦日沖に鴎がヨーォ…
明日よりの逆光にあり燕子花
差異として西日の中の脳の皺
月光を容れて恥骨の高くあり
月光は粒子か陰のひかりだし
月光に胎児の透けるガラス瓶
月光の男根萎える精神(エスプリ)も
『六曜』NO5,2006年12月
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六林男師は句会後懇話の折必ず紅茶とジャムトーストを食した
たっぷりとジャムを頬張り六林男の忌
去年今年集積回路を行き来して
散骨の海に迫れり蜜柑山
水仙の水漬くところにゲイの脛
狂気の方へ凍蝶の翅音なく
『六曜』NO6,2007年3月
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逃亡の明日の前に雪解川
疾駆する朧の夜の雌豹らは
天上の声を力に地虫出づ
合掌のたび後頭に花の塵
小林に誘う女(ひと)の花篝
誕生日落花の日々を顧みる
『六曜』NO7,2007年6月
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意匠
さまざまに意匠を凝らし鶴来る
来た方へ樹影が流れ霧流れ
壇というただの団塊藪虱
月光に法衣を濡らし手淫かな
十二月八日の翼海の底
電飾の聖夜無名のひとびとの自死
先端を包み隠せり冬の霧
脳梁に雪の風巻けり自我地獄
辺縁をカサカサ歩く冬銀河
冷えきって抗議のように手首切る
『豈』NO.44,2007年3月31日