冤罪で死刑、あとの祭り飯塚二児殺害事件

週間現代6/13日号は、いつになく張り切っていて記事に読み応えがあった。週間新潮のデタラメ記事で週刊誌が叩かれて発奮したか?
『取り返しのつかぬ国家の殺人』から要約。

足利事件が冤罪の恐ろしさを如実に教えてくれたが、同時期に発生したもうひとつの冤罪事件。足利事件の検察官によるDNA再鑑定の同意がとれた直後、こちらの飯塚二児殺害事件の「犯人」は森英介法相の押印で死刑執行された。
冤罪と確定的にいうが、実際は弁護側の再審請求をする矢先で、可能性ということだが、どう読んでも冤罪だったとしか思えないので、ここでは冤罪と断定的に書く。


なお、この事件をきちっと書いているエントリーが少ないので死刑制度論議の参照事件として記しておこうと思う。



(以下要約)
この事件は、92年2月20日飯塚市小一女児二名が登校途中に行方不明となり、翌日朝倉市山中で死体で発見された。久間三千年(くまみちとし)54歳(当時)が逮捕され、06年最高裁で上告棄却され死刑確定。以後14年間留置。08年10月28日死刑執行。


この間、久間は一貫として無実を主張。証拠となったDNAの再鑑定を要求。


裁判でのDNA鑑定を科警研とは別におこなったのはDNA鑑定の第一人者石山元帝京大教授。当時の検察幹部から、科警研のDNA鑑定が信用できないので依頼されたといういきさつらしいが、当時検察側自体が導入直後のDNA鑑定を疑問視していたことを裏付けている。


警察が持参した検体は、脱脂綿に付着した針先ほどの微量の血痕だった。
これではMCT118(当時の鑑定方法の名)での鑑定は不可能なのでミトコンドリアDNAという方法を実施。


科警研は久間と2女児の3人分のDNAが出たというが、石山元教授は2人の女児のDNAしかでなかったことを報告。
裁判では検察のストーリーは2人分のDNAなら、久間が犯人だといえるとして、石山氏に証言を要請し、石山氏はその通り証言したが、同時に科警研の鑑定は鑑定の水準をみたしておらず、しっかりしたものでないといけない旨を付け加えている。


そして氏は、自分の研究室ならもう一度やり直せというぐらいのお粗末なものだったと証言している。
科警研の技術的未熟さとは、検体を何度も取り直して検査しなおしているが、そもそもDNA鑑定はそんなに何度もやり直すようなものではないという点である。(そのため検体が石山氏へは針の先ほどになってしまっている)


また、MCTに不可欠なゲルプレート(DNAを落とすゲル状の板)をきれいに作れる技官がいなかった。それが作れないと結果がズレてくるとのこと。


何度も検査をしたなら、その結果データを全て公表して証拠として提示するのが科学者の態度でなくてはいけないと石山氏は指弾する。


そういう意味で科警研は完全なモラルハザードにより一人の人間を死刑に追いやった、と氏は断定する。


この科警研の鑑定人は足利事件と同一人物が含まれている。


なぜ足利事件のDNA鑑定がゆらぎ、検察官自身が再審に了解した直後に、
こちらの飯塚二児殺害事件の久間は急遽死刑が執行されたのだろうか?


石山氏は当時警察はDNA鑑定導入にかなりの予算をかけていたし、人員も増員していて、何が何でも成果を出す必要に迫られていた。そこに無理があったのではないか?
弁護側は、従ってそれをうすうす解っていてDNA鑑定=MCT118方式が絡んだ死刑囚に問題が波及するのを恐れた結果ではなかったかと推測する。警察と検察の面子のために問題にならないように殺してしまえということだったと言うのである。
(以上要約終わり)


問題は麻生政権下で森英助法相が就任したのが、08年9月24日。10日28日には久間の死刑執行が行われている。わずか一月で押印執行である。この間森法相はどれだけ自分でこの裁判過程を検証したのか疑問である。


就任当時、わたしのカウントでは死刑囚は100人強ほどいたはずだ。もっと古い死刑囚も沢山いたわけで、なぜ久間がこのとき2名の1人に選ばれたのか理由がわからない。
それは編集部が法務省に取材をしても「答えられない」の一言だったらしい。


なお、犯行場所が特定されないため、警察は事件の6年後再捜査と称して現場検証をしたが、開始後25分たらずで女児の衣類など朝倉市山中で発見したと提出しているらしい。それは6年も山野に野ざらしにされていては不思議なほど真新しいきれいなものだったと言われる。(これは某ブログ記事で、弁護側の話ではありませんので注記します。)


いずれにしても、MCT118方式が1000万人で40人もが同一人物に特定されるという精度の中で、目撃証言と情況証拠だけで、この杜撰なDNA鑑定によって久間は最後まで無実を訴えて処刑された。


今の制度は4億分の1と精度が格段に上がっているが、それでもひょっとして3人の被疑者だけの中で一人が誤認されるという偶然もありうるわけで、
裁判員制度が素人に委ねられる中で、死刑論議は本格的に結論を出す時期に来ているのではないか?


なお、この事件は久間死刑囚が既に執行されたこともあり、検索してもヒットが極めて少ない。関係者からもう少し裁判内容の詳細がアップされることを望みます。


【追記1】
6月5日中日新聞は、この事件の弁護団が久間死刑囚の名誉回復の意味で死後再審請求をする予定だと報じている。


【追記2】
「いいクニつくろう」さんが、簡潔に事件経過を書いておりますので、紹介します。
http://tukurou.seesaa.net/article/115243434.html?reload=2009-06-06T14:28:25