映画「ハマのドン」の戦中世代の良心

なかなか観ごたえがありました。
「ハマのドン」こと港湾会社藤木組の会長で横浜自民党最古参藤木幸夫が主役だ。
横浜IR誘致反対を横浜市民と闘い、2021年8月22日横浜市長選に勝利したドキュメンタリー映画です。
もう既に多くの人は観ているでしょう。
大阪シナリオ学校の主催のようだが、パンフには映画の情報が少なく、テレ朝系の女性監督が製作したようで、それ以上のことは覚えていない。
時間と根気があれば、昭和論として、藤木のキャラクターを通して書けるのだが、久しぶりに人ごみにでて疲れたのでメモのみ。
思うのは、保守には面白い人物がいて、リベラルにはなぜ権威主義で硬い面白味のない人物が多いのかと思う。
 まあ保守にはその代わり、良質な保守思想家山﨑行太郎氏が言うように「お粗末で杜撰な」連中が多いのか、という困った問題もあるのだが。
青春期、東映任侠映画に熱狂した世代としては、この藤木の語る一つ一つが港湾労働者の歴史が背後に重く怒涛の声として迫るのだ。まさに健さん鶴田浩二の言葉につながって、深い感動を呼び起こす。
藤木は叫ぶ、港湾で汗と血を流して逝った者たちのことを思うと、目先の金目当てにハマヘ来て、自分のことしか考えない連中にハマを潰されたくない、カジノなど要らない!と。
「俺が言ってるんじゃあない、死んだ者たちが(カジノいらない)言ってるんだ、死人は言葉をしゃべるんだよ」。
また、
推進派だった藤木を阻止派に変えたのは、これまた横浜自民党の古参議員が、国学院大の某教授の反対論者を紹介したことに始まる。
いかに横浜の未来にそぐわないか、ギャンブルが家庭を破壊し子どもたちを不幸にする恐れがあるか気づくのだった。
91の藤木の生涯に映像は戦争体験を踏まえてたっぷりと照射する。そして、藤木が在って欲しい横浜イメージに、日本の未来像が浮かび上がってくるのである。
これは良質な保守ともいえるが、いや政治的区分けを超えて、戦争を経験した世代がもつ日本人の良心とも言えるものだろう。
思い起こされるのは、戦後すがもプリズンの中で着想しモーターボート競艇で日本の復興に貢献しようとした笹川良一だ。
彼は、元々が相場師で財を成し右翼政党をもった。従って博打に戦後の混乱期もあって、躊躇はない。日本人の生活を良くしたいという点では、私財をなげうってでも家庭的に不幸は子供たちを引き取って自宅に住まわせたり、教育の面倒を見たりしている。
彼のもとに集まる右翼はほとんどがまともな家庭の味を知らないゴロツキであった。笹川はそいう人物を好んで育て周りに置いた。
両者とも、こうした人々を束ねる理屈は、「人のために生きる」であった。
両者に漂うのは、強烈な庶民への救済体質であり、財を成し政治家と交われども、己の生活体験に固着した「大衆の原像」を手放さなかった。
笹川は、競艇の売り上げの3.3%を以って笹川財団(現日本財団)を興し、世界のらい病撲滅にその金を注ぎ込み、以って世界を駆け回った。WHOの特命大使となって死んだが、今や念願通りブラジルを残すのみとなっている。
藤木のIR阻止闘争勝利は、横浜のみならず日本の未来の方向性に一つの光明を与えた。
少年たちを前に、「人は独りではいきれない、人は2人になったときに人間になるんだ」と語る言葉は、ヘーゲルであり現象学であろう。
「この勝利は、主権在民、まさに在民だ」、「主役は俺じゃない、市民だよ」と何のてらいもなくいってのけた言葉は、トランプ米大統領の下僕として安倍晋三が持ち込み、安倍の雑魚の糞となてしまった、自分が横浜から総理に押し上げた菅義偉への強烈なパンチであり、日本の中央集権政治解体への箴言として、歴史に長く輝くだろう。
 
蛇足だが、藤木もチラッと話していたが、創業者父親の幸太郎は港湾荷役の仕事を近代化し、最後は全国の総元締めとなった。山口組田岡一雄は荷役の仕事を習得すべく幸太郎の弟子になっている。
幸太郎が、労働者の賃金を巻き上げるヤクザを排除すのだが、その時のエピソードが面白い。
この話は、私は別の何かの本で読んで知っていたから、あああの藤木組の組長の倅かと感慨深かった。
以前民主党政権で国交大臣になった前原誠司が藤木に会いに来て、おそるおそる訊いたらしい。
藤木組は博打で暴力団とは関係ないのかと。藤木は思い切って訊いた前原を褒めていたが、前原の見識のなさはダメだと思う。そんなことは、日本の戦後史なり裏面史なりをやっていれば結構有名な史実なのだから。政治家としては常識の範囲としておくべき事柄である。
さて、大阪にはドンはいない。
昨日(9/29)カジノ会社と大阪市長は実質上の契約調印をした。
維新に騙され、訳もなく熱狂する大阪市民が果たして阻止できるだろうか。
IR阻止訴訟が二つ係争中である。
市民も府民民度が試されている。