「詩と福島」和合亮一講演会要旨(2012,3,24)

和合亮一氏が神戸女学院で「わたしは生きる、あなたは生きる」というサブタイトルで2時間半語りました。
主催は、神戸女学院大FOKプロジェクト。司会飯田裕子、進行佐藤友亮

和合氏については、震災まではほとんど知らなかった。
そこで梅田の紀伊國屋書店で何冊かの平積みの中から、「詩の邂逅」を買い求め詩の部分だけ読んで会場に向かった。

地理に不案内のため、乗り間違えたりして遅刻。
最初に震災犠牲者への黙とうがあったとのこと。

和合氏は見るからに誠実素朴な風貌で、いかにも東北人といった印象。だれにも好感をもたれるタイプか。
しかし、語る言葉には力がみなぎり、弁舌は滑らか。やはり高校教師として自己訓練されている。
和合氏がこんなに災後有名になったのは、twitterで詩を発表し続けたからだ。
大概物書きは妙ないきがりがあって、こういう新しい媒体には距離をとりたがる。しかし、わたしが大学生の頃に産まれた和合氏の世代は抵抗はないのだろうし、氏も語っているように、ほかの通信手段やモノが破壊され消失している非常時に、唯一発信機能が有効だったのはtwitterだった。
   *

twitter詩は3.11から5日目の3.15から開始。
11にはまだ全容がよく解らなかった。ラジオだけが聞けて青葉地区?で300人遺体がまとまって見つかったとか知り、唯事ではないなとわかってくる。14日に福島原発水素爆発が報道され、避難指示だらけになって初めて福島はもう終わりだと思った。

そうすると絶望感の反面、なんだか言葉がぐるぐる渦をまくように頭に上がってくる。こうなったらもう言葉でやってやる、言葉で書いてやると決意した。

そうしてtwitterで書きながら自分の意識に目覚めていった。その間フォロワーの方々に本当に支えられありがたかった。
(会場にもtwitterのフォロワーが多数参加しているようだった、このプロジェクトメンバー自体もそのようだ)

福島大学で上田先生に詩を学びました。
立命館大から福島大へ来られた先生で、本格的に詩を学んだ。その先生は、一番好きな町は神戸だと言っていたので、今日はこれて本当に嬉しい。
きれいな校舎、環境、これでは勉強したくなりますね。

福島大は山の中にあるだけで、環境はいいのですが、蛇にかまれたとか野兎がキャンパスを走っているとか、そんな所です。

教師になって、初任地が浜通りで6年間を過ごした。いわば僕の第二のふるさとです。
今回被災した海岸沿いは何度も訪れ知っているところです。大変なショックで哀しい。

震災後しばらくして、いろいろな人と話しているうちに、これは記録していこうと。
誰に言われたわけでもないが、自分でこれは記録していこうと思った。それで相馬市松川浦へ取材に出掛けて行った。

なかなか言葉にならないのだが、シャッター音を聞いているうちに、目覚めてくる何かがあって、言葉になってくる。
そして毎週浜通りに通うようになった。

旧友や教え子にいろいろ話を聞いて歩いた。
それが「詩の礫」と「詩の黙礼」に結実。

「詩の黙礼」は、被災者へのレクイエムにしたかった。
わたしたちは、死者と生者の間にいる感じがした。

3.11がめぐってきて、災厄の日に死者への儀礼として記録すること。

これまでわたしは言葉の橋を渡って生き延びられたのかもしれない。死者との橋を架け、twitterすることでフォロワーに橋を架け渡ってきたのかもしれない。

そして今でも3.11から福島は何にも変わっていない。
洗濯物は外で干さない、子供は外で遊ばない、公園には草がボウボウと生い茂っている。

以前のような自然豊かな福島を取り戻す−豊かな自然との共生を図る。それが福島で生きる意味だと思う。

詩を書いて子孫に伝えること、福島を取り戻すために!

話の途中に何篇かの詩が朗読された。とても艶のある力強い声でした。
以上は管理者の要約ですので、脱落誤解もあるかもしれませんのでご了承ください。


氏が最後に朗読した『決意』を挙げておきます。

決意

福島に風は吹く
福島に星は瞬く
福島に木は芽吹く
福島に花は咲く
福島に生きる


福島を生きる
福島を愛する
福島を愛する
福島をあきらめない
福島を信ずる
福島を歩く


福島の名を呼ぶ
福島を誇りに思う
福島を子どもたちに手渡す


福島を抱きしめる


福島と共に涙を流す


福島に泣く
福島が泣く
福島と泣く
福島で泣く


福島は私です
福島は故郷です
福島は人生です
福島はあなたです


福島は父と母です
福島は子どもです
福島は青空です
福島は雲です


福島を守る
福島を取り戻す
福島を手の中に
福島を生きる


福島に生きる
福島を生きる


福島で生きる
福島を生きる


   福島で生きる
   福島を生きる


平明でいてとても力強い意思がみなぎっています。佳い詩だと思います。
こうして生の福島の声を聴いて、ほとんど他人ごとでしかなかった私の感情にいくらか変化を自覚できるものとなりました。
遠いいったこともない福島の人々の悲鳴と祈りが、胸中に木魂しています。

和合氏の詩に応えて、一句。

強東風に息を整え負げねど!      至高

   

(俳誌『六曜』第27号先行発表−6月頃発行予定)