「戦争とファシズム」映画祭-池田浩士先生のトークセッション

大阪十三(じゅうそう)にある第七芸術劇場において、想田和弘氏企画の「戦争とファシズム」映画祭が行われています。
本日12月30日(金)は、「ザ・ウェイブ」上映の後、池田浩士先生(精華大学名誉教授・写真)が想田氏とトークセッション。

ザ・ウェイブ」はおもしろくも恐ろしい作品だった。
かつてアメリカで行われた心理実験の実話をもとにドイツで映画にされた。
高校の体育教師が、自分を独裁者と設定して生徒に服従を求める実習を始めるのだが、この虚構の役割設定が次第に生徒にとって快感を伴う現実の生活を形成していく。虚構と現実が入交、いつしか虚構と現実が反転しているのだ。
独裁者教師と生徒たちの絆にまで高められた支配と服従のキーワードは、団結と規律と相互扶助である。これが教室の日常を支配し、それに懐疑する少数の生徒を多数の生徒が排除し始める。すると恋人同士が破綻し、当の教師自信が夫婦破綻するという、愛し合う者たちを分断していく。それがまさにファシズム教室を形成したとき、悲劇的結末を迎える。
結末を語ると、これから見ようとする人に身も蓋もなくなるのでやめるとしよう。
ドイツナチズムの遺した教訓をこの映画はみごとに描いており、もちろん軸となる独裁者は悪であるのだが、問題はそれを喜んで支持する大衆の全体主義的体質である。

なおこの作品は当時204万人を動員し記録的なヒットをした。
若い人はぜひ観ておくといいと思う。


池田先生と想田和弘氏のトークは、30分ほどの短時間だったので、「ザ・ウェーブ」にからめて、池田先生のファシズム解説と現在の大阪橋下市政下のファッショ的雰囲気が話題になった。


池田先生は、1940年生まれ大津の出身。
高校生時代ドイツの小説に感銘をうけ、大学でナチスの体験に触れて、衝撃をうける。

ドイツでは敗戦直後から毎年第三帝国時代に関するアンケートをとっている。1970年になってもほとんどの国民がホローコーストを知っていながらその時代が最もよかったという結果になっている。
1970年の調査対象は、70才の老人たち。彼らは、第一次大戦の敗戦時19才、その後莫大な賠償金を背負いながらもっとも民主的なワイマール憲法下からナチ党が出てきて全体主義を敷き、敗戦を迎え戦後の平和の中にいるのだが、その激動の全過程をみている世代だ。

ドイツの隠れたジョークに、ヒトラーの失敗は、ユダヤ人を皆殺しにしなかったことだ、というものがあるそうだ。
それほどナチズムは強固なものだ。

ヒトラー政権は、高い失業率が、1.9%まで改善させる。原因はボランティア。たとえば突撃隊(ピストルで武装したナチ党防衛隊)はボランティア活動をするが、普通の給与の1/5ぐらいのチップで就労するから見かけの失業率はぐっと下がった。
日本はそれを真似して勤労奉仕をおこなった。
このとき大事なときは、「自発性に基づく」ということだ、これが美化された。従ってボランティアを無条件にいいものとする精神はとても怖い面をもっている。
そうすると戦争遂行の兵員が不足して戦争ができなくなるため、他民族の強制連行で賄う。これも日本はドイツに学んだ。

ドイツの選挙制度は、完全な均一な比例代表制で、政党に投票する。6万票ごとに一議席が与えられる。投票率は90%ぐらいで高い。このなかで、ナチ党は最高39%しかとれなかった。にもかかわらずヒトラーが政権に就くと好き放題勝手なことをし始めた。
この辺りは、いまの橋下政治はよく似ていて、獲得票数はそれほど対立候補と開きがないのに、政権につくと酷いことをいっぱいしてきている。

この時、共産党は決定的に間違う。
「やつらを先に行かせろ、次にわれわれが行く」といった。ヒトラーに政権をとらせろ、どうせやつらは失敗するだろう、だからそのあとで必然的にわれわれが政権をとることになる、と考えた。

ファシズム政党は、少数議席でも政権をとるといかに危険かということだ。

以上がドイツナチズムの話。

さらに詳しく知りたい方は、

池田浩士講演録『反ハシズムファシズム』」http://d.hatena.ne.jp/haigujin/20111106

次に池田先生の映画に絡めた感想。


1、映画にもあったように、服装によって自分が自分でなくなっていく。
(映画では高校生が、白いシャツを皆で着用する。白シャツを拒否する少数生徒を排除しはじめる)
それは面白半分で虚構だと認識しているが、着ているうちに本当の自分だと現実に思うようになる。

2、体育の教師がキー。
  一般に大切な体と生活を教える教師なのに、体育と家庭科の教師は軽んじられている。従ってコンプレックスを
  もっていて、それを発条とする。
  ヒトラーは、第一次対戦に下士官だったのに、一兵卒として参加したと売り込んだ。これは橋下が被差別民であることを
  自ら吹聴したのとよく合っている。

3、大阪(橋下政治)の雰囲気に話が移る。
 ①ファシズムは実体がなくていい。

   なぜ支持するのか?何の裏付けも実績もない--すなわち実体がない。この人なら退屈しないし何かやってくれる
   と言っている、というだけ。
   実際にやっていることは酷いことをしている。
   ・国歌起立斉唱、刺青調査などは明らかに個人の表現の自由、生き方、ライフスタイルを侵している。
   ・コンプレックスをもって成り上がっていく。
    映画の教師は体育教師、短大上がり、軽んじられている存在。
 ②フィクション、つまりデマゴギーが効果をもってしまっている。
 ③政治は、現在と未来に責任を持たなければならないのだが、理念なくして政治が行われている。
   どういう社会にするかの理念が語られていない。
 ④マスコミの責任が大きい。
   橋下政治に違うということを言わない。市職員の抑圧をよくやったという報じ方ばかり。

以上のような有意義な話であった。


池田先生にお会いするのも二年ぶりで、帰りがけご挨拶。大学でまた改めてご教授をお願いし、快諾いただいた。


明日12月1日(土)は映画のほかに、雨宮処凛トークセッションのゲストのようだ。ツイッターでは13:00出演。
本日から9時間半の対策五味川純平原作の「戦争と平和」を三日がかりで上映しています。本日は満員でした。
劇場は、阪急十三駅より徒歩3分。
HP→ http://www.nanagei.com/