大阪都構想の否決と賛成派の勘違いー改革の再構築のための簡単な総括

2015年5月17日、大阪都構想住民投票が実施された。
都構想賛成派を反対派が僅差で上回り、否決された。

当管理者は反対派ではあったが、改革と大阪の繁栄へ向けた創世を願うものである。
賛成派は改革派で、反対派は守旧派・左翼、という橋下維新の会や一部マスコミが貼るレッテルの枠組み自体を虚偽であり、イデオロギー的印象操作だと思っているものである。
反対派もほとんどが今の大阪の現状でいいと思っていない。そういう立場から今回の住民投票の結果を府民としてコメントしておきたい。

なお、日頃新聞もテレビも接しないので、記中細かい点で事実誤認があるかもしれないが、大意を読み取っていただければ、間違いはないと思う。


開票結果は、エリアで明確に橋下政治が炙り出された。

 
[グラフからみる大まかな傾向]
注意は出口調査から推定数値を構成したものでありあくまで傾向数値であり、事前投票40万票弱(組織反対票が多いといわれている)が含まれていない。従ってグラフの見た目以上に賛成反対は拮抗しているはずである。
■エリア(写真は産経west)でみると、
 中央区北区など市内中心部は賛成多数、
 湾岸から南域は反対多数。

■性別、年齢層でみると、
 老年、女性は反対多数、但し40代女性以下は半々で拮抗している。
 40以下男性賛成多数。現役労働者とみなされている層。

1.金持ち、ビジネスマンの多いエリアは賛成、現役若年労働者も賛成。

→橋下政治がこの層には変革や経済繁栄を期待させてきた、さしたるリスクはなかった。
都構想自体を都市論ではなく、企業改革と勘違いし、荒っぽくても橋下へ任せておこう、リスクはなさそうだし企業のトップダウン式でワンマンの方がスピーディでいい、という判断とみなせる。

2.待機児童、保育所廃止保母給与ダウン、役人、教員給与の大幅ダウン、公務員への左派対抗イデオロギー強要、人権侵害(労組からの人権侵害訴訟は橋下側全件敗訴)、警察のみ給与優遇、治安の悪化、老人バス廃止、病院廃止、老人地下鉄無料バス廃止予定、など、リスクが有ったエリアと女性・老年は反対多数。

→リスクをまともに受け、企業内改革発想からこぼれ落ちる人達は反対。
当然で、橋下のやることでまた生活が圧迫されると怖れたのだ。

賛成派の若者は、私も現役時代地域とか老人とか視野になかったので、多分企業内発想しかもたず、都市論がない。
故に、現役が維持されている必要条件の女性の子育て、町内会運営や年中行事や地域児童安全管理や防災にはまったく目が届いていおらず、エゴイズムが主流。

橋下政治は、この女性と老年をゴミ扱いして、もっともリスクが高い形で押し付けた。
今回の票の結果はそのリベンジだといえよう。

橋下支持者も、現役若者が多いが、変革への期待はあって評価されるのだが、経験と知恵がない。
そのため、企業と同様ワンマン社長のトップダウンで、ついていけばなんとかしてくれるという極めて没主体的無責任な連中なのだ。

再度言うが、女と老年は、地域に密着し、地域への愛着と絆をもっとも強くもって地味に支えている都市住民なのだ。ここにリスクを負わせる言動は、今の時代政策はひとつも進展しない。

万一進展したとしても、現役の豊かなビジネスライフは確保できない。
賛成を支持した人たちは、世代論での富配分論への矮小化、イデオロギーでの他者論欠落で、結局自分達が認められなかった。他者論をもたない集団は、他者に承認されない。社会の基本原理である。
橋下の決定的な負性を共有してしまった結果である。

3.専門家を敵にして、専門家の意見をきかなかった。そればかりか反対意見者の言論に物理的恫喝をした。
京大大学院藤井教授への恫喝事件など。

→自民、公明の支持で橋下は政治家としてスタートした。それが最後は敵になった。
体育会系ノリで、文系研究者と文化芸術家を苛め抜いた。維新の会は最後的にはすべてを敵に回し、孤立しどこも賛同していない。

前々市長から始まっていた大阪創世構想は、市大研究者を交えてプロジェクトが立ち上がっていた。都市論のプロたちが知恵を絞って進めていた。平松時代失速したが、その水脈は続いていた。
橋下はこれを無視、官僚・財界からのビジネスマインドと、新自由主義の官僚サポートによってコストカットに終始した。もちろん子供たちからブーイング爆発の食えない給食とか、優遇校と切り捨て校の選別による高校学費無償化とか、バランスに問題がありまだ評価に悶着のある「善政」もしてはいるが、金を生み出す施策は皆無である。
プロの助言をしりぞけるから、維新の会は経済政策は全く無策となっている。

しかも当初行政算定は年間4000億円の金が浮くといい、試算したら1億円だと(笑)。
自民党試案では、特別区にした場合、5年後には10億7000万円が不足するという。
役所の収支は、地方債などの借金も収入扱いだから初歩的な計算ミスをしていたのだろう。とにかく維新の会はなにごとにつけ暴力的で敵対的で啓蒙的知識にも専門分野にも稚拙である。

いかにも金を稼いだことのない、堺屋太一高橋洋一上山信一(元官僚・元マッキンゼー)など官僚クズレを顧問に置いていただけ政策は税収を増やすことではなく、コストカットという内向きの政策から踏み出せなかった。

はたして、都構想の区長には市長なみの事業起案権は与えられるのか?それがなければ公選制となっても、税収を区ごとの知恵で増やす権限がなければ、都になって自動的に経済繁栄があるなどというデマを誰が信じられようか。
府の方に任せ切れば、区ごとのアンバランスさは進行するにきまっている。

橋下は、勝ちたい一心で、市の税収はそのまま区になっても旧市に返還されるというのだが、それなら統合して府の財政に繰り込む意味は何もない。矛盾だろう。

よしんばそうであっても、それは最初だけだろう。未来永劫固定化されるなどと信じる者は常識はずれだ。大阪市の金を目当てにしているから、府に統合しようとするわけで、そうでなければ逆に府を解体し、市に一元化すればいい。
維新が強い府(議会)に統合する意味を、少し政治が解るものには、裏の意図が透けて見える。
すなわち市の借金返済は毎年黒字で牛歩ではあるが10年間で1兆円を返済してきており、今後も続く予想だ。それに引き替え大阪府は全く進展していない。
ガラガラポンが有利なのだ。
それくらいのリテラシーはもちなさい、ということだ。

さらにいえば、別に事務機構を別につくりまとめて一括五区の事務組織で処理するというのだが、これでむしろ三重行政になる恐れがあるのだ。

政治にナイーブな賛成派は、完全に洗脳された。
ここに大阪が、いつまでも沈滞の原因がある。
つまり、維新支持派のような企業と都市論を誤認し、生産力至上主義、地方自治に無知、エゴイズ優先の人たちが、反対派に拮抗するほどいたということだ。

再度いうが、大阪府は企業ではない、都市である。
都市論からすれば、女と老年はゴミではない。そこにリスクを与えることがまともだというなら、女と老年が安い給料でになっている事業分野を、現役ですべて担えばよい。たちどころに人件費が回らず、自分たちがいくら稼いでも都市インフラ必要経費に吸い取られていくだろう。

それでは都市は回らない、おそらく現役の給料なんか相対的に半分に減るだろう。

大阪の未来は、子育ての女と、地域運営を愛着による無償の労働でまわしている老年の手にあるということを、橋下維新の会の支持者は知ることだ。
この住民投票は浮ついた改革案を批判的に告発した、地方自治政治に関して後世重要な事例となるだろう。

改革の道筋を止めないために、賛成派は真面目に改革を考えることを期待する。
そうすれば、反対派も改革を希求しているわけで、改革ということばの中身を一緒にもてるようにすることができるだろう。
それには、橋下のように、両者を敵対的に引き裂くような政治家を担がないことである。

橋下維新の会支持者にはいい教訓となったと思う。
しかし、多くが論理ではなく手前かってなイデオロギーを振り回す橋下病の性癖だから、また第二の橋下は出てくる恐れは十分あるだろう。

橋下支持者は、橋下病をまず治癒して、改革へ向けて反対派と連帯して、いい大阪をつくろうではありませんか。


【参考資料】

■「なぜ大阪から企業が逃げていくのか」飯島薫著
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150515-00015233-president-bus_all&p=1
■「大阪都構想の欠陥 東京23区の現実」保坂展人
http://www.asahi.com/and_w/life/TKY201402050010.html
三橋貴明ブログ「大阪都構想:知って欲しい七つの事実」藤井聡
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/
藤井聡vs高橋洋一大阪都構想反対派と賛成派の討論
https://www.youtube.com/watch?v=6TimxAjxw8Y
■「大阪都構想が日本を破壊する:藤井聡出版記念講演」
https://www.youtube.com/watch?v=i_6cOeeTc_A