老境に残った定期購読誌―生を活性化してくれる智の刺激として

結局最後に残った購読誌は、『飢餓陣営』と『出版人・広告人』だ。
前者はもはやマイナーとはいえないほど高質で硬質なよく知られた思想誌だ。私の友人登録の佐藤氏の珠玉の個人編集誌である。

今回ちょっと紹介したいのは、後者の今井照容氏の出版業界向けの個人編集誌『出版人・広告人』である。
これはひょんなことから今井氏と知り合ってから無償提供いただいており、貧乏老人としてはとてもありがたい。『出版人・広告人』は業界誌の体裁をとりしっかり稼ぎながら、今井氏の眼にかなった玉稿を目次にも載せずに忍ばせるという大胆不敵な戦略を貫いている。私のお目当てはそんな寄稿である。例えば連載の三上治(元ブント叛旗派委員長)氏の書評など商業誌には書かないが、それなりの論客たちのものだ。

今号は福井紳一氏の連載『反逆のメロディー』だ。今号は「日・満・支同時革命と佐藤大四郎・尾崎秀美の思想と行動」である。夢を追いかける話は右翼左翼にかかわらず大好きな私は引き込まれるように読む。しかしその密度の濃さに圧倒され、今号から読むのを保留している。これは必ず出版社が目をつけて単行本になるなと踏んだからだ。こういう本は一気に読まないと頭に残らないのと、興奮度合いを味わいきれないのでもったいないという想いがあるからだ。
福井氏は東大全共闘山本義隆ほどの知名度はないが、われわれの世代にはその筋の人でよく知られた人だ。この誌で初めて知ったが、ブロフィールには近現代思想史専攻の著述家と規定している。こういう人のこういう原稿を載せる今井氏の眼力と人脈を、かねてより感嘆をもって畏敬してきた。(歳は今井氏は私より10歳ぐらい下なのだ)

今井氏は昔俳句をやられていて、今でも気が赴くままにこのFacebokにもアップされる。私より上手い。さらにご自身の専門とする日本の被差別部落民をテーマにした著書『三角寛「サンカ小説」の誕生』は第25回尾崎秀樹記念大衆文学研究賞を受賞している。これがまた戦前の風俗・世相・犯罪などを克明に記述していて実に面白い。よくここまで「事件」を蒐集したなと驚嘆するほどの労作なのだ。これは近現代史の一領野としての庶民史としても面白いはずだ、なかなかこの切り口からの本はないのではないだろうか。一読をお薦めする。

実は今井氏とはネットで知り合い、リアルに知遇を得た最初で最後の人。今井氏には変な老人だと思われているが、私には尊敬と憧憬の人なのである。自分の穴を孤独に愚直に掘り続ける人は、文句なしに偉いのだ。私のように自分の文を書きたいと焦燥の日々を過ごし、定年になってやっと書き始めた者には眩しいばかりである。
健康に留意して、もう遊ぶことを覚えてもよいのではないでしょうか。
(Facebookより転載)