筆者が、保健所で理不尽な対応をされて、抗議のブログを書いたのは2月のことだった。
その後少しは改善したのかと思っていたが、どうもそうではなく相変わらず厚労省保健所は、市民の医療システムの外にたって研究的観点で対応していることが市中病院に混乱をもたらしている結果だと、市中医師が告発している。
いまだに、新型コロナが感染症法の立て付けで積極的検査依頼という位置づけにされているため、市民の健康管理という臨床的対策がとられていない。クラスターだけを対象にデータ収集の独占化を図っている。市民の個別の症状は重症化しなければ相変わらず対応しないという証言である。
とても分かりやすく適確な論稿なので全文アップして広く厚労省保健所の政策変更を促す言論活動を喫緊の課題とされますように期待します。
とりあえず、この論稿を市役所、市議らに送ります。
大阪府は発熱外来も、兵庫県のように行政と民間検査会社が大量PCR検査実施契約も結んでいないのですから。
わだ内科クリニック
和田眞紀夫2020年7月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
1.重症者以外は保健所ルートのPCR検査が受けられない
当院にかかりつけの警察官の方から電話があって、前の日から倦怠感等の症状あるとのこと。池袋の夜の繁華街の警らをする仕事に従事していて、同僚の警察官が嗅覚異常等の症状があってPCR検査を受けたので、自分も検査を受けられないかとの問い合わせだった。
このような状況の方ならば医療機関から依頼すればすぐにPCR検査を受けさせてもらえるものと思って保健所に連絡してみたら予想外の回答だった。重症でなければ保健所ルートではPCR検査を受けられないと断られてしまったのだ。
練馬区コールセンターでは、今週に入ってから問い合わせの電話が鳴りやまない状態で、保健所の検査枠はもう満杯で保健所経由でPCR検査が受けられるのは、すでに重症例のみに限定されてしまったというのだ。それで軽症・中等症はすべて練馬区・医師会ルートの唾液検査に回すことになっているらしい(ちなみに重症とは明らかな肺炎が検査で確認されていて、高熱、呼吸困難が強い症例とのこと)。
仕方がないので保健所ルートの検査は諦めて、医師会ルートですでに唾液PCR検査を開始している診療所を調べて直接頼み込んでなんとか検査をしてもらうことができた。
2.クラスター対策に翻弄する行政
新宿のホストクラブで蔓延しているクラスターでは無症状でも検査がうけられているのに、一般の市民は重症でなければ検査を受けられないというのはどういうことなのだろうか。
この警察官の方に限らず、今日来院された別な患者さんにしても、本当に検査が必要な患者さんの検査がしてもらえない(後にこの患者さんは唾液のPCR検査で陽性だった)。これは感染拡大初期の3、4月の話をしているのではなく、再び東京を中心に感染が急拡大している現在の状況だ。
行政は夜のクラスター潰しに躍起になっているが、そちらの検査のために保健所のPCR枠が使い果たされているのだろうか。クラスター対策に余念がなくても、一般の患者さんの対応は置き去りのままだ。驚くべきことに行政の根本的な対処法は春先と何も変わっていなかったのだ。クラスター班は当初、「クラスターを潰していけば感染の拡大は抑えられ、一般の検査は重症の患者さんに限定してそれ以外は検査の必要なし」と明言していた。その後、議論が百出してその方針の修正が求められたが、まったくと言っていいほど行政を動かす力にはなっていなかったらしい。
1日2万件の検査ができる体制ができたとか、症状のある疑い患者さんは全て検査ができるようになっているというのは、どうやら民間の検査会社のキャパシティーの総数を計上しているだけのことで、保健所ルートの検査体制はほとんど拡充されていないようだ。3.行政検査の枠に当てはめて診療所での唾液PCR検査の実施を制限している
冒頭でお示ししたとおり、練馬区ではほかの区に先駆けて診療所での唾液PCR検査がようやく今週からできるようになった。といっても個々の診療所がそのための認可を東京都から取得するのは容易ではない。保険適用が認められている検査でありながら、感染症法という法律の枠内で行う行政検査に位置付けてしまったため、東京都と個別契約を交わさない限り検査することは認められず、その契約を交わすのに1ヶ月以上も掛かる煩雑な行程を踏まなければならない状況に置かれている。練馬区の場合はなんとか医師会が東京都と集合契約を結ぶところに漕ぎ着けてようやく検査ができるようになったのだ。行政はどうやら軽症・中等症のPCR検査は積極的に増やすつもりは今でもないらしい。4.必要なのはクラスター潰しではなく、検査が必要な人が検査を受けられること
一般市民と現場の医療機関が望んでいるのは、我々市民が必要な時に必要な検査を受けられることであって、クラスター潰しではない。統計や文献と向かい合って仕事をしている公衆衛生の専門家はすぐに事前確率うんぬんという机上の理論を振りかざすが、個々人からすれば確率などはどうでもいい。自分か感染しているのかどうか、それさえ解ればいいのだ。検査が必要なのは「事前確率が高い集団」なのではなく、感染したときに重症化する可能性のある「リスクが高い個人」なのだ。臨床に携わっていない統計の専門家にはその事が理解できないようだ。
「社会全体の感染拡大を広げないようにするにはどうしたらいいか」(A)ということと、「ある個人が感染した疑いにある時にどう診断してどう対処していくか」(B)とは全く別次元の問題であって、前者は公衆衛生、後者は医療であり、この2つを混同して論じてはいけない。Aのためには検査は必要ないと判断するのは一つの選択肢であっても、そのためにBのための検査が必要ないということにはならない。Aの専門家がBにおける検査の必要性にまで言及するのは越権行為であり、BにはBの専門家(現場の臨床医や感染症の専門医)がいるのだ。そして往々にして行政はAにばかり躍起になり、Bのことは置き去りにする傾向がある。
行政に直接携わっておられる方々も、霞ヶ関を出て現場に足を運んで現場の生の声をきかなければ実態を把握する事はできない。現場の医師やジャーナリズムがいくら訴えかけても悲しいかな行政が変わることはほとんどないのが日本の現状だ。行政を動かす事ができる方々の奮起に期待したい。