■亡国の日本人に警鐘-カレル・ヴァン・ウォルフレン(アムステル大学教授)の記者クラブ講演

nico's, blogに出会い、ウォルフレンの講演録の要約を読むことができた。

11月17日に日本記者クラブの招きで、新著『アメリカとともに沈みゆく自由世界』(徳間書店)の出版記念講演とのことである。

彼の著作は読んだことはないので、もともとがどういう傾向のひとかしらない。以前中央公論に寄稿した論考で、小沢一郎を世界の政治家のなかでも3本の指に入る優秀な政治家であると評価していた。

そのとき、外人で小沢の政治理念と実行力を知悉していること自体が驚きだったが、nico氏によると、過去の著作も精緻をこらした日本分析には定評があるとのこと。

もともとが日本の特派員であったようだ。

それにしても、わたしがmixiなどで素人ながらに呟いてきた認識にこれ程近いことに驚きを禁じえない。
日本の中でもわたしの意見などは少数派のまた少数だろうと思ってきたが、どうもアメリカ政府とは関係のないアミテージなどの「ジャパンハンド」利権屋と付き合って、軍国主義を称揚する国内の官僚、マスコミ、電波芸者の方こそ、いまや世界の少数派に成り下がり、亡国の道を誘導していることが解る。

大変意を強くした。

ぜひ、日本の自立的外交と東アジアの平和的安定化を望み、中国北朝鮮の挑発に抗議し、沖縄基地撤去を実現し、東アジア全体の互恵関係を推進したいと願う人には、一読をお勧めしたい。

nico氏の講演録要約(blog「書に触れて街に出よう」)。

<基調講演>


[制御のきかなくなった米国のシステム]

私は残念な話をしなければならない。ブッシュ時代に明らかに米国は悪い方向に向かった。変化を求めた国民はオバマ大統領に期待した。2008年ごろには米国には危機感が覆い、大きな変化を受け入れる用意があるかのように思われた。しかし期待したような大きな変化は起こらず、チャンスは失われてしまったということが2009年にかけて明らかとなってきた。ブッシュ政権が招いた数々の現象を米国はもはや変えようとはしないのだということを世界は学んだ。つまり世界が期待するような秩序を作る力としての米国ではなく、却って混乱を作り出す力としての米国が存在するということを我々は学んだのである。もちろん米国民も大統領自身もこのような状況を望んでいたわけではない。それは米国の制度機構が制御不能に陥り、国全体が結果として制御不能となったためなのである。これは政府が関東軍を制御しえなった1930年代の日本にたとえることができる。アイゼンハワー大統領は離任演説で軍産複合体の肥大化と民主主義の危機について述べ警鐘を鳴らしたが、彼が予期したよりもずっと軍産複合体は成長を続けた。同じことが米国の金融産業についても言える。もはや政治的に制御が不能となっているのである。オバマ大統領は今さら何をしても遅すぎるといわざるを得ない状況である。

[日米関係への影響について]

日米関係は極めて特殊な関係である。この関係は、何十年にもたって日本の官僚・産業界・政府が防衛や戦略の問題に煩わされることなく産業発展に集中でき、世界第2位の経済大国となることができたという日本にとって好都合なものであった。この従来は快適であった関係はここ数年日本にとって負債を負う形のものになってきていると考えていたが、2009年になってまさにこれが如実に現れてきたといえる。今こそ目を見開いてこの現実を認識しなければならない。

例えば民主党政権が誕生してから最初の半年の米国の反応を見ればわかる。オバマ大統領は日本を重要な価値ある同盟国であるとは見做していないし、関心もない。50年に及ぶ自民党政権の後誕生した世界で2番目の経済大国の新首相と数時間に渡り話すのは当然だと考えられた。しかし、鳩山首相は3回ほど日米首脳会談を求めたにもかかわらず、米国は正式な外交経路すら通さず、スポークスマンが「日本の総理が日本の国内問題を解決するのに米国大統領を利用してはならない」と述べて断るという外交上極めて非礼な対応を行った。コペンハーゲンでの晩餐会で鳩山首相ヒラリー・クリントン国務長官が話す機会があったが、記者に沖縄問題についてヒラリー長官と議論をしたかと尋ねられた鳩山首相は「前向きな話ができた」と政治家のよく使う言い回しで述べたが、ヒラリー長官は米国帰国後駐米日本大使を呼びつけ「鳩山首相はウソをついた。前向きでもなんでもない」と苦情を述べたという。この米側の対応は敵国に対しても用いないほど非礼極まりないものである。オーストラリアの日本研究者ケビン・マコーミック氏も米国がここまで手荒い対応を日本にしたことはなかったし、敵国を含めた他の国に対してもそうだと指摘している。ゲーツ国防長官が来日した際も従来行われていた防衛大臣との晩餐会出席を断り、閲兵も断ったが、これも外交儀礼上非礼な対応である。あたかもどこまでやれば日本人は怒り出すのか米国は試そうとしているのかのようである。

民主党政権が誕生した際に新たに起こった議論、日米安保を再検討することやより対等な関係にするといったことが要因として考えられる。それまでも多くの人が議論していたことである。それまでは中国が懸念材料であったものの、日本がこれから懸念材料となるのではないかという論評が国務省から米国メディアに流す論調にでてきた。20年前は国務省の官僚は日米関係を積極的なものにしていこうとする知日派が主導権を発揮していたものの、現在国務省で対日政策を担当しているのは殆ど国防総省の人脈で、三次元的世界観を持たず、制御のきかなくなった軍産複合体軍国主義的見地しかないような視野の狭い人たちなのである。米国政府高官たちもこのような軍国主義的官僚たちに席巻されており、その日本観も彼らの目から見たものでしかない。米国の官僚は彼らが何をしようとも日本のマスコミは抗議しないだろう、米国は日本を防衛してくれているのだから外交はワシントンを満足させるようにしなければいけないと日本のマスコミは思っているという前提に立っている。

東京財団とCenter for New American Security (CNAS)の共同声明というものを昨日インターネットで見つけたのだが、このCNASというシンクタンクは私の本で書いている。CNASはアフガニスタンの戦争を拡大することやイラクに大量派兵駐留することの正当性を訴えている組織である。このシンクタンク共和党民主党の議員も入った「超党派組織」という看板を掲げているが、その資金源は兵器会社、ボーイングロッキード・マーティンジェネラル・ダイナミクス、そしてペンタゴンが仕事を発注している、チェイニーのハリバートンから派生したKBRなどで、ワシントンの日本担当主席カート・キャンベルが設立者である。リベラルな秩序に関する共同声明となっているが、米側の背景を見ると軍国主義者であって、自由主義に興味などない人たちの集まりである。

日本のエリートたちは渡米して要人に会おうとする際、ブッシュ政権で重要な役割を果たしたネオコン保守派のリチャード・アーミテージを日米関係の要人として経由するのだが、日本人は自分が一体誰を相手にしているのか本当に理解しているのだろうか? 特にマスコミがこのことを理解するのは重要である。相手と話すときに相手のバックグラウンドを把握した上で話をしているのか? マスコミの皆さんにはぜひこのことを肝に銘じておいていただきたい。このような人たちは日本の友人ではないし、日本のことに関心など全くない人たちなのである。彼らは日本を独立国として扱うなどということもしないし、日本のためにベストになることや地域のためにベストになるために日本がどういう役割を果たすべきかなどということに関心もない人たちなのである。

(ここで基調講演が終わる。司会の読売記者が、「日本では日米同盟の重要性が再認識されてきている」とコメント。さらに1ヶ月ほど前に記者クラブアーミテージ氏を招いて講演会を開き、場内が満員になったと述べた。このあと質疑応答に移る。)


<質疑応答>

[沖縄基地問題について]

オバマ大統領はこの問題について何も考えておらず、ペンタゴン系の人に丸投げしたのではないか。ラムズフェルトに押し付けられたもので、当事の日本の官僚や自民党は何もしないという最も賢明な選択をした。民主党政権が誕生した瞬間、この難問を民主党政権に一気に負わせることをした。東京は沖縄の状況、ムードを殆ど理解していない。もし、当事あの計画が行われたとしたら、沖縄は爆発し、どの政権も持たない、よって菅直人も持たないであろうから、彼もこの計画について何も行わないであろう。

私が日本の弁護士なら在沖縄海兵隊日米安保条約に違反しているという論陣を張るだろう。海兵隊は日本の防衛の為に駐留すると取り決められているにもかかわらず、全くその目的のために駐留しているのではないからだ。全くである。これは防衛の為に存在しているのではなく、イラクアフガニスタン、将来的にはその他アジアで起こりうる紛争での攻撃、あるいは中国を米軍基地で包囲するといった目的の為に海兵隊基地は存在しているのである。つまり日米安全保障条約でうたっているような目的とは全く異なる目的の為に存在しているといえる。情勢の変化に応じてちょっとは拡大解釈をしてもよいではないかという議論もあろう。米国が多くの脅威にさらされているという議論もあるだろう。日本も信頼に足りない脅威となる国に囲まれているという議論もあるだろう。しかし、もしこのことがこれまでの中で最も重要であるというのであれば、もしそんな事態があるのだと仮定すれば、私の論じてきたことは全て間違いといってよい。しかし、所謂「脅威」と呼ばれているものは、あらゆる比較を超えて過大に誇張されたものである。紛争や戦争を必要とする国というもの自体が目的なのである。さもないと軍国主義に対して莫大な資金が入ってこなくなるからである。これから強大化する中国ということを言うのであれば、万人にとって、日中の将来にとって、良いことは安定的な相互互恵関係を築いていくことである。しかし、日本が米国の奴隷のごとく米国からの指令を実行するという状態である限りは、中国は日本をまともな相手として取り扱わないだろう。今まで自然の摂理のように当然のことと思っていたことを改めて考え直さなければいけない状況が到来したのだということを申し上げておきたい。

[どのように日本人は日米関係を打開すべきか]

前原とクリントンの会見を見れば、日米は対等でないことは明らかで、クリントンは前原を子供扱いしている。あの会談で印象付けるものはなかった。日米安保は日本の領土問題に役立ってはいない。冷戦下では別であるが、米国が唯一の超大国となった今は事情が別である。米国の少人数の対日政策委員たちは有権者や大統領でさえ制御できない、誰も制御できない制度のために仕事をしている。この勢力は自己保存のためだけに仕事をしており、日本を含め誰の役に立つものでもない。では何をすれば突破口が開けるのか。みなさんがとにかくこの問題について話し、書くことである。そうすることで多くの人が目覚めることになるだろう。60−70年代の日本人はよく平和問題について議論していた。この当事の感情を思い出し、ワシントンに対して、どうして世界を無茶苦茶にするのだ、と意見をしっかり述べることが必要である。

[アメリカ大統領選について]

共和党が他によい候補者を見つけられなければ、オバマにも再選のチャンスはあるのではないか。

[中国の台頭について]

日中両国、世界にとってよいのは安定的に相互互恵と理解の関係を作ることである。中国の目覚しい経済発展に関するパニックに陥るような数字は重視していない。日本の戦後の高度成長もこれに比べうるものである。中国が巨大であるからとの理由で恐れる必要はない。中国が欲しくても手に入れられない先進技術は日本にある。中国は下請工場のような存在である。中国の軍事についても心配していない。それはワシントンが日本人に中国への恐怖心と嫌悪感を植え付け、怖がらせようとしているのである。

[ウォルフレン氏の推薦図書・著者]

もっと皆さんには本を読んでいただきたい。米国では米国の状況に衝撃を受けた人々が本を書いている。そのうちの何冊か推薦する。軍産複合体につい て”House of War” James Carroll, 米軍事主義台頭についてAndrew Bacevichの本。コントロールのきかなくなった米国経済について:ガルブレイスの息子のJames Galbraithの本、過去8-10年にわたる米国についての考察:ニューヨークタイムスの戦争特派員をだったChris Hedgesの本。

(講演終わり)

[http://nicoasia.wordpress.com/2010/11/22/%e3%82%a6%e3%82%a9%e3%83%ab%e3%83%95%e3%83%ac%e3%83%b3%e6%95%99%e6%8e%88%e3%81%ae%e6%97%a5%e6%9c%ac%e4%ba%ba%e3%81%b8%e3%81%ae%e3%83%a1%e3%83%83%e3%82%bb%e3%83%bc%e3%82%b8%e3%80%80%e7%b1%b3%e5%9b%bd/]